クマ、イノシシ、シカ、サルといった人間にとっての「害獣」から、新潟県など過疎地の集落を守る「守護神」がいる。梓山犬(あずさやまいぬ)だ。古くからの日本犬の系統で、勇敢かつ飼い主に従順、人間には優しい。山を駆け回り、朝夕に集落をパトロールし、犬のにおいを残し、人里や田畑におりてこないようブロックしている。頼もしい。ただし愛玩犬とは異なり、野性味を保つため日々豊富な運動量を確保しなければならず、気まぐれで素人が飼うのは容易ではない。戦中に激減した個体数を増やす取り組みは道半ばだ。現状と展望を探った。(論説編集委員・原 崇)
<梓山犬>大正時代に長野県川上村梓山地区で育まれた信州柴犬系の優秀な猟犬が、旧内務省から「梓山犬」の名と天然記念物の指定を受けた。体高は45〜50センチで一般的な柴犬より一回り大きい。太平洋戦争末期の食糧難で食用にされるなどして激減した。ただ、かつて群馬県内の猟師に譲られていた梓山犬の子孫がわずかに残っており、戦後、復活に向けて有志が動き出した。2016年に複数の関連団体が合併し、NPO法人「梓山犬血統保存会」を結成した。新潟県など信越地域を中心に、近親交配を避けつつ、慎重に数を増やす取り組みを続けている。
「よーし。行ってこーい」。加茂市上高柳集落で暮らす中村長雄さん(74)がかんじきを履き、銀号(雄10歳)と虎鉄号(雄8歳)の梓山犬の親子と共に集落近くの山を中腹まで登ると、まず銀号を放つ。
雪中、尾根へ全速力で駆け上がっていく。30、40分ほどで戻ってくると、今度は虎鉄号が尾根へ走る。なぜ一度に2頭で尾根に向かわないかといえば、主人を孤立させてクマに襲われないよう代わりばんこで護衛しているのだ。賢い。
さて、なぜ梓山犬が駆け回るのが尾根なのか-。...
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