十分なたんぱく質摂取と筋肉トレーニングで筋肉量を維持しながら安全に血糖改善

2026年1月29日
岐阜大学
関西電力医学研究所
京都大学

ダイアベティス(糖尿病)をもつ高齢者におけるSGLT2阻害薬の有効性と安全性 -十分なたんぱく質摂取と筋肉トレーニングで筋肉量を維持しながら安全に血糖改善 -

 

 

本研究のポイント

・2型のダイアベティス(糖尿病)をもつ高齢者において、たんぱく質摂取と筋力トレーニングを併用したうえでSGLT2阻害薬を使用すると、筋肉量や筋力を低下させることなくHbA1cと体重が改善しました。

・1年間(52週間)の継続使用でも、重症低血糖や脱水、ケトアシドーシスなどの重大な副作用はみられず、2型のダイアベティスをもつ高齢者でも安全に使用できる可能性が示されました。

・十分なたんぱく質摂取とレジスタンス運動の併用によって、SGLT2阻害薬の効果を安全に引き出せることが明らかになりました。

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202601283181-O8-1Jgj1jNu

 

 

研究概要

 ダイアベティス(糖尿病)をもつ高齢者では、血糖値の管理だけでなく、加齢に伴って起こりやすい「サルコペニア*1(筋肉量の減少や筋力・身体機能の低下)」を防ぐことが重要です。近年、日本でも使用が広がっているSGLT2阻害薬*2には優れた血糖改善・減量効果がある一方、筋肉の減少を助長するのではないかという懸念が指摘されてきました。そこで、岐阜大学、関西電力医学研究所、久留米大学、京都大学などの研究グループ(BALLAST Study Group)は、サルコペニア予防に有効とされるたんぱく質摂取と筋力トレーニング(レジスタンス運動)を実践している2型のダイアベティスをもつ日本人高齢者において、SGLT2阻害薬「ルセオグリフロジン」の長期的な有効性と安全性をランダム化比較試験で検証しました。

 本研究(BALLAST study)では、65歳以上の2型のダイアベティスをもつ日本人高齢者を対象に、ルセオグリフロジンを1年間(52週間)服用する群(ルセオグリフロジン群)と服用しない群(コントロール群)で比較を行いました。すべての参加者は、管理栄養士による栄養相談のもと、筋肉維持に重要なたんぱく質を十分に摂取し、ロイシン高配合アミノ酸サプリメント(アミノエール®)を毎日補給しました。さらに、自宅で安全に続けられる筋肉トレーニング(レジスタンス運動)として、JADEC(公益社団法人日本糖尿病協会)の運動動画*3を活用した筋肉トレーニングを実施しました。

 その結果、ルセオグリフロジン群では、コントロール群と比較して、血糖管理指標であるHbA1cが平均0.36%改善し、体重も平均1.15kg減少しました。一方、SMI(骨格筋量指数)*4、握力、5回椅子立ち上がり時間などには両群で差はなく、筋肉量や筋力、身体機能への悪影響は認められませんでした。また、重症低血糖や脱水、ケトアシドーシスなどの重大な副作用も確認されませんでした。

 これらの結果から、サルコペニア予防のための栄養と運動を十分に行っている2型のダイアベティスをもつ高齢者では、SGLT2阻害薬を安全に使用でき、血糖値や体重の改善効果を得られる可能性が示されました。

 本研究成果は、日本時間2026年1月21日に国際学術誌「Diabetes, Obesity and Metabolism」オンライン版に掲載されました。

 

 

研究背景

 日本は世界でも例を見ないスピードで高齢化が進んでおり、ダイアベティス(糖尿病)をもつ高齢者が急増しています。ダイアベティスをもつ高齢者では、血糖値を適切に管理して合併症を防ぐことに加えて、加齢に伴って起こりやすい「サルコペニア*1(筋肉量の減少や筋力・身体機能の低下)」を予防・管理することが大きな課題となっています。そのため、高齢の糖尿病患者には、十分なエネルギー摂取、とくにたんぱく質をしっかりとることや、筋力を保つための筋肉トレーニング(レジスタンス運動)が重要です。

 2型のダイアベティスに対する治療薬であるSGLT2阻害薬*2は、血糖値を下げるだけでなく体重も減らし、さらに心不全や慢性腎臓病の予防につながる効果が報告されており、日本でも使用が広がっています。一方で、体重が減る際に脂肪だけでなく筋肉まで減ってしまい、サルコペニアを悪化させるのではないかという懸念が指摘されてきました。

 そこで、岐阜大学、関西電力医学研究所、久留米大学、京都大学の研究グループ(BALLAST Study Group)は、サルコペニア予防として推奨される「たんぱく質摂取」と「レジスタンス運動」を行っている2型のダイアベティスをもつ高齢者にSGLT2阻害薬を使用した場合、血糖改善や減量の効果が十分に得られるか、また筋肉量や筋力、身体機能に悪影響が出ないかを調べるため、52週間にわたる多施設共同の臨床試験を実施しました。

 

 

研究成果

 本研究では、2型のダイアベティスをもつ65歳以上の日本人高齢者を対象に、SGLT2阻害薬「ルセオグリフロジン」を52週間服用する群(ルセオグリフロジン群)と、服用しない群(コントロール群)に分けて比較しました。主な評価項目として血糖コントロールの指標であるHbA1cの変化を調べるとともに、体重や体組成(脂肪量・筋肉量など)、握力、身体機能(5回椅子立ち上がりに要する時間)を検討しました。

 すべての参加者には、筋肉量や筋力を保つために十分なエネルギー、特にたんぱく質をしっかりとるよう管理栄養士が栄養相談を行いました。また、ロイシンを多く含むアミノ酸サプリメント(アミノエール®、味の素社)を毎日摂取しました。さらに、自宅で安全に続けられる筋力トレーニングとして、JADEC(公益社団法人日本糖尿病協会)が企画・制作している「運動療法のすすめ」*3を見ながら筋肉トレーニングを行ってもらいました。栄養摂取状況は食事摂取頻度調査票を用いて定期的に確認するとともに、サプリメント摂取、運動の実施状況は日誌で確認しました。

  その結果、ルセオグリフロジン群では、HbA1cがコントロール群より平均0.36%、より改善しました。また、体重も平均1.15kg減少しました。一方、SMI(骨格筋量指数)*4、握力、5回椅子立ち上がり試験では両群で差はなく、筋量や筋力、身体機能の低下は認められませんでした。さらに、重い低血糖や脱水、ケトアシドーシスなどの重大な副作用もみられませんでした。 

 

【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202601283181-O7-l63u6zbi】 

 

 

今後の展開

 本研究から、サルコペニアを防ぐために推奨される十分なエネルギー摂取、特にたんぱく質摂取とレジスタンス運動を実践しているダイアベティスをもつ高齢者では、SGLT2阻害薬を使用しても筋肉量や筋力、身体機能を損なうことなく、安全に血糖値の改善や体重減少の効果が得られることが示されました。

 ただし、本研究の対象は、サルコペニアや認知症をもたない比較的健康な高齢者に限られており、すでにサルコペニアやフレイルを発症している方でも同じように安全であるかどうかは、現時点では明らかではありません。今後、こうした対象を含めて、筋肉量や身体機能への影響を主要な評価項目とした、より大規模で長期間の研究が必要です。

 SGLT2阻害薬が効果を発揮するとされる心不全や慢性腎臓病をもつ人では、サルコペニアを発症している人が多く含まれます。したがって、実際の医療現場では引き続き、栄養状態や筋力の変化に十分注意しながら慎重に使用することが重要です。

 

 

用語解説

*1: サルコペニア

加齢や栄養不足などによって筋肉量が減り、筋力や身体機能が低下する状態を指します。転びやすくなり骨折の危険が高まるだけでなく、健康状態の悪化や死亡リスクの上昇にもつながります。ダイアベティス(糖尿病)をもつ人では特に起こりやすいため、予防として、十分なエネルギー摂取、特にたんぱく質をしっかりとることや、筋力トレーニング(レジスタンス運動)、そして適切な治療を継続することが重要です。

 

*2: SGLT2阻害薬
2型のダイアベティス(糖尿病)の治療薬の一つで、腎臓で糖を体内に戻す働きを抑え、余分な糖を尿として排出させることで血糖値を下げます。体重を減らす効果に加え、心臓や腎臓の病気を予防する作用も報告されています。一方で、脱水、尿路や性器の感染症、まれにケトアシドーシスと呼ばれる重い合併症が起こることがあるため、注意して使用する必要があります。

 

*3 「運動療法のすすめ」

JADEC(公益社団法人日本糖尿病協会)が企画・制作した運動療法を主体的に学べる教育動画です。内容は「ミニドラマ」「○×クイズ」「運動体験」などで構成され、視聴するだけでなく、実際に体を動かしながら理解を深められる“参加型”の教材となっています。本教育動画では、ミニドラマや実践的なエクササイズを通して、楽しみながら正しい知識を身につけ、運動療法の習慣化につなげることを目的としています。

「運動療法のすすめ」( リンク先:JADEC(公益社団法人日本糖尿病協会)ホームページ )

 

*4: SMI(Skeletal muscle mass、骨格筋量指数)

腕や脚にある筋肉の量を数値で示す指標です。年齢を重ねることや栄養不足、運動不足、病気などによって低下しやすく、サルコペニアの判定にも用いられます。

 

 

【論文情報】

雑誌名:Diabetes, Obesity and Metabolism

論文タイトル:BALLAST study: A multicentre, open-label, randomized-controlled, 52-week clinical trial of the efficacy and safety of luseogliflozin in older Japanese adults with type 2 diabetes receiving leucine-enriched amino acid supplementation and physical exercise programme

著者:Yoshihiro Takahashi(※), Makoto Hayashi, Takehiro Kato, Yukio Horikawa, Shin Tsunekawa, Hitoshi Kuwata, Yutaka Seino, Ryota Ogata, Kenta Murotani, Daisuke Yabe(※) and BALLAST Study Group

(※) Corresponding author

DOI: 10.1111/dom.70494

 

本研究は、大正製薬株式会社の支援の下、東海国立大学機構名古屋大学の臨床研究審査委員会(CRB)の審査・承認を受けて実施された特定臨床研究です。