
今シーズンも新潟県内は厳しい寒さと大雪に見舞われました。寒波が来るたびにSNS(交流サイト)などで話題になるのが「佐渡ブロック(佐渡ガード)」という言葉です。これは「新潟市周辺の降雪量が県内の他地域に比べて少ないのは、佐渡島が日本海から押し寄せる雪雲を物理的に遮っているためではないか」という都市伝説でした。実はこの佐渡ブロック、近年の研究によって実態が解明され、メカニズムが明らかになっています。
今回は過去の降雪データなどを振り返った上で、佐渡ブロックのメカニズムについて紹介します。
◆そもそも「佐渡ブロック」とは?
「日本海から来る雪雲が、佐渡に先にぶつかって雪を降らすので、新潟市は雪が少なくなる」という説は、昔から新潟市周辺でささやかれていました。新潟市秋葉区出身の記者も、子どもの頃に周囲の大人がそんな話をしていたのを覚えています。
しかし当時は、はっきりと「佐渡ブロック」という言葉で表現されていたわけではなかったように思います。
調べてみると、「佐渡ブロック」という言葉がネット上に頻繁に現れるようになったのは、SNSが普及し始めた2010年代以降のようです。グーグルの検索データから、特定のワードの関心度を数値やグラフで表す「Googleトレンド」で動向を確認したところ、13年2月に数値が初めて大きく上昇し、その後も冬場を中心に関心度が高まる傾向がみられます。
Googleトレンド(データ期間:2010年1月〜2026年2月)
<Googleトレンド>グーグルの検索データから、特定のワードの関心度を数値やグラフで表すツール。数値は0から100の相対的な値で、検索数そのものを指すわけではない。100は選択した時間や場所などにおける最大の関心度を表し、0は十分なデータがなかったことを意味する。
中でも、強い寒波に見舞われた26年1月は数値が跳ね上がっていることが分かります。


上記の図をみると、寒波が襲来しても新潟市周辺の降雪量や積雪量が特に少ないことが一目瞭然です。今冬の降雪傾向がきっかけとなり、佐渡ブロックへの関心が高まったのではないか、という背景が考えられます。
◆佐渡ブロックのメカニズムとは?
データで見る新潟市の「特異性」
新潟市の降雪量は他地域と比べてどれほど少ないのでしょうか。気象データで確認してみましょう。なお「降雪量」は降った雪の総量、「積雪」はその時に積もっている雪の深さを指します。
例えば、2026年2月6日時点で、新潟市中央区の積雪はゼロでしたが、湯沢町は123センチ、十日町市は217センチを記録。新潟市と同じ沿岸部でも柏崎市は43センチ、上越市高田は118センチとまとまった積雪がありました。
新潟市の雪の少なさは、過去のデータから見ても明らかです。
上記の図は、過去60年間における30年ごとの平均累計降雪量を比較したものです。県内の各地点で近年は少雪傾向にありますが、直近の30年間の平均累計降雪量でも新潟市は154センチに対し、十日町市は938センチと、依然として6倍以上の差があることが分かります。近隣の新発田市(365センチ)と比較しても2倍以上の差です。
また、自治体は通常の除雪体制から警戒態勢に移る目安として「警戒積雪深」を定めています=下の表参照=。新潟市の警戒積雪深は40センチですが、近隣の新発田市は80センチ、豪雪地の十日町市は220センチにもなっています。雪の少ない新潟市は、他の自治体に比べて低めに設定されていることが分かります。
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○各自治体の警戒積雪深 |
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|---|---|---|---|---|---|
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新発田 |
新潟 |
長岡 |
十日町 |
上越 |
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80センチ |
40センチ |
140センチ |
220センチ |
150センチ |
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新潟市の雪の少なさは、他県の都市と比べても顕著です。
同じ日本海側の沿岸部にある近隣県の都市と比較すると、シーズンで最も雪が積もった時の深さ(最深積雪)に大きな差はない一方、シーズンを通した累計降雪量には違いがあることが読み取れます。最深積雪の平年値は新潟市、酒田市、金沢市いずれも32センチですが、累計降雪量は新潟市が139センチと、酒田市(211センチ)、金沢市(157センチ)に比べて最も少なくなっています。
しかし、忘れてはならないのは、新潟県自体は全国有数の豪雪地帯だという事実です。
上記の気象庁のメッシュ図(最深積雪の平年値)を見ると、新潟県は上中越の山沿いを中心に積雪が非常に多いことが分かります。山沿いは平年の最深積雪が1・6~3メートルほどを示す黄色、赤、紫で塗られ、上中越では海岸部の近くまで1メートルほどを示す青色が広がっています。ところが、図内で緑の丸で囲んだ新潟市周辺だけは、まるで「何らかの力」が働いたかのように、60センチ以下を示す水色が広がり、明らかに雪が少なくなっているのです。
この「何らかの力」の正体こそ「佐渡ブロック」ではないか――。それが長年ささやかれてきた仮説であり、筑波大学計算科学研究センターの日下博幸教授=気象・海洋物理・陸水学=のチームがその謎を解き明かしました。
解明された「佐渡ブロック」2つのメカニズム
「佐渡ブロックは、新潟に住む人の間では知られた現象でした。ただ、それが『まことしやか』に語られるだけで、科学的な証明はされていませんでした」。日下教授は研究の背景をこう語ります。
この長年の謎に挑むきっかけとなったのは、日下教授の研究室に在籍していた新潟県出身の大学院生でした。「地元の現象を研究したい」という彼の思いがきっかけとなって、研究がスタートし、23年7月に研究結果が公表されました。
では、なぜ佐渡は雪雲をブロックできるのでしょうか。日下教授は、そのメカニズムについて二つの大きな要因があると説明します。
【メカニズム①】山の壁による物理的な遮断
一つ目は、佐渡自体が物理的な「壁」となる効果です。
大陸から日本海を越えて流れてきた雪雲が、佐渡の北部にある大佐渡山地(金北山など)にぶつかります。雪雲は山を越えるために上昇し、その過程で風上側(大佐渡山地周辺)に多くの雪を降らせます。山を越えて風下(新潟市側)にたどり着いた空気は、水蒸気が減り、新潟市に到達する前に雪雲の勢いが弱まります。
日下教授は「湿った雪雲が越後山脈を越える際に雪が降り、関東平野に乾燥した風が吹くのと似た原理です」と話します。
【メカニズム②】風速の低下による雪雲の「再発達」の抑制
二つ目の要因は、佐渡によって風が弱められることにあります。
そもそも雪雲は、大陸からの冷たい空気が比較的暖かい日本海の上を通過する際、海面から水蒸気と熱の供給を受けて発達します。風が強いほど、この供給は活発になります。
しかし、佐渡を通り抜けた風は、島の陰になる新潟市周辺で風速が低下します。風が弱まるため、海面からの水蒸気や熱の供給が減り、一度弱まった雪雲が再び発達することが抑えられます。
つまり佐渡ブロックとは、単に雪雲を「遮る」だけでなく、雪雲が「育つ」のを防ぐ効果も持っているのです。この二つのメカニズムが合わさることで、新潟市周辺に雪の少ない領域が生まれている、というのが研究チームが導き出した答えです。
◆佐渡が「なかったら」「山形沖に移動したら」
驚きのシミュレーション結果
研究チームは佐渡ブロックの存在を明らかにするために、過去10年間(2005~14年)の冬における気象レーダーのデータを徹底的に解析しました。その結果、大陸から強い季節風が吹く条件下において、実に約8割のケースで佐渡の風下に降雪の少ない領域が形成されていることを突き止めました。
次に、過去の気象データを基にコンピューターシミュレーションで検証。佐渡島が「ある場合」と「ない場合」で雪雲の動きを比較したところ、「ある場合」では、現実とほぼ同じ位置に雪の少ない領域が再現されました。
さらに、シミュレーションでは以下のような興味深い結果も示されています(下の画像も合わせてご確認ください)。
- もし...















