【2020/12/28】

 新型コロナウイルスによる「人権問題」は感染者だけにとどまらない。

 感染への対応を担う新潟市などの保健所には日々、市民からの悩みや苦情が寄せられる。濃厚接触者の家族らが、勤め先から「休んでほしい」と言われたケースがあった。県内のある医療機関では、職員が美容室の予約を断られたという。

 心の隙間に広がる新型ウイルスの影。それは本県を代表する企業にも及んだ。

 「ママの会社って役に立つものを作っているんだよね? 悪くないよね?」

 冷暖房・住宅設備機器製造「コロナ」(三条市)の30代女性社員は春ごろ、小学校低学年の長男にそう問われた。落ち込んでいるようだった。「ずっと不安に思っていたんだね…」。胸が締め付けられた。

 新型ウイルスは拡大の一途をたどり、国民の大半が「コロナ」と呼ぶ。テレビでは「コロナのせいで」「コロナが憎い」といった街の声が頻繁に流れた。

 コロナ社の創業は1937年。太陽の周囲に現れるコロナなどを由来とした社名であり、新型ウイルスとは当然無関係だ。女性は「自分の会社のことじゃないと分かっていても、気持ちのいいものではないし、もやもやとしていた」。そこに長男の言葉が刺さった。

 「人を思いやる余裕が社会になくなっていたのだと思う。そういうマイナスの空気を子どもも敏感に感じたのかも」と受け止めた。

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 新型ウイルスの感染拡大に伴い、「コロナ」という言葉に関連した企業や商品が風評被害を受けているという、うわさが流れた。小林一芳社長(68)は友人から「コロナ大丈夫なんか」と聞かれた。周囲が社名の件を心配しているのは明らかだった。社内では女性のような話を耳にするようになった。

 考えた。「社員の子どもの中には嫌な思いをした子がいるかもしれない。小さい子が読める形で、そして約2300人の社員には『頑張ろう』というメッセージを打ちだそう」と。

 6月13日土曜、新潟日報朝刊に全面広告を載せた。「コロナではたらくかぞくをもつ、キミへ」。ひらがなとカタカナだけの文章。「かぞくも、キミも、なんにもわるくないから」。そして「キミのじまんのかぞくは、コロナのじまんのしゃいんです」と締めた。

 週明け月曜の社内は明るい雰囲気に包まれた。反響は大きく、県内外から多くの応援のはがきや手紙が寄せられた。女性の長男は広告を見て「ちょっと笑って、ほっとした感じだった」。その姿を見て気持ちが軽くなった。

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 2016年に人権3法(障害者差別解消法、ヘイトスピーチ対策法、部落差別解消推進法)が施行されるなど、人権を尊重する社会づくりが進んでいる。だが、ウイルス禍という新たな事態は、個人の尊厳を守ることの難しさを改めて見せつけた。

 心の傷は見えにくい。だからこそ「思いやりと優しさを持って行動してほしい」と石垣修・県人権啓発室長(56)は話す。

 広告への激励の中に一つの詩があった。「コロナと言う字を組み立てて 君のやさしさ思い出す日々」

 コ・ロ・ナの3文字を組み合わせると漢字の「君」になる。そこには社会に求められる心の「ぬくもり」がにじんでいた。

(長期企画「明日の風は」取材班)

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 新型コロナウイルスとの闘いが続いています。会う、話す、触れる…。あらゆる行動に見えない不安がつきまとい、歯がゆさを覚えます。しかし現実から目をそらすことはできません。明日の風がどう吹こうとも、日々の暮らしは続きます。新潟日報社は1月から長期企画「明日の風は」を始めます。ウイルス禍で揺れる県内の駅や医院、葬儀場など、さまざまな場所での日常を描き、取材班が出会った人たちの思いを伝えます。同じ向かい風の中を歩む「誰か」の心に響くことを願いながら。