【2020/12/27】

 新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。人と人とが物理的に離れることを求められ、互いの心に距離が生まれた。その隙間に広がる不安は、感染者やその周囲への差別・偏見・中傷という「人権」に関わる問題を表出させた。新型ウイルスに感染した新潟県内の女性が新潟日報社の取材に応じ、その心の痛みを明かした。また、県内を見渡すと、影響は感染と無関係の人たちにも及ぶ。目に見えない新型ウイルスが、人々の心に深い影を落とし続けている。

 県内に住む女性は、数カ月前のある日、新型コロナウイルスに感染した。友人が陽性になったことでPCR検査を受け、感染が分かった。「えっ、本当にこれでかかっているの」。37度の微熱以外に自覚症状はない。味覚、嗅覚も変わりはなかった。

 「あいつ、かかったらしいぜ」。女性は、感染した友人が職場でうわさされたと聞いた。

 「こっちだって、なりたくてなったわけじゃない。いろんな考え方の人がいるから仕方ないかもしれないけど…」。感染した人にとげのある視線が向けられた事実は、女性の心を波立たせる。

 1週間ほど入院し、自宅で1カ月の経過観察を終えて社会に戻った。

 感染が拡大して以降、社会のそこここに、個人の言動を縛るような抑圧的な空気がある。「『誰とも会うな、食事に行くな』と言われても生きている限り難しいし、どこでかかるかなんて誰も分からない」と、女性は思う。

 自身は不快に感じる経験はなかったと言うが、うわさされた友人のことが気掛かりだった。「友達を見ていて、誰かにうつしちゃった時の方が切ないし、心が痛いんだということは多くの人に知ってほしい」

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 感染者は県内でも増え続けている。しかし、その心理的な圧迫は、県内で初めて感染者が発生した2月末から変わらない。

 治療を終えた感染者は学校に、職場に、地域に帰る。「最初の一言、私はなんて言ったらいいでしょうか」。新潟市内の感染者は聞き取り調査を担う市職員に対して、電話口で不安げに問い掛けたという。

 その声色は、日常を取り戻した安心感より、周囲へのおびえが勝っていた。

 感染者に圧力をかけるような社会の反応が後を絶たないからだ。市保健所では多い時で1日に400件の電話が鳴った。「陽性の人が利用していた場所はどこだ」「どうしてこんなことになった」「全員にPCR検査を受けさせろ」-。多くは強い怒りや不安を帯びていた。

 県内の“第1波”に当たる「3~5月の非常に混乱していた時期」(市保健所)、病室にいる一部の感染者に、立て続けに電話が入ったという。「(感染者のニュースについて)あれはあなたのことじゃないの」。友人や普段あまり付き合いのない知人からだった。精神的に追い込まれてスマートフォンの電源を切り、必要な連絡ができなくなった人もいた。

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 日本赤十字社はインターネットサイトで、新型ウイルスによる「負のスパイラル」の仕組みを紹介。見えない敵(新型ウイルス)への不安から特定の対象を嫌悪して遠ざけ、「つかの間の安心感」を得るために差別や偏見が生まれると解説する。

 冬を迎え、感染は学校や福祉施設などに広がりを見せる。今月15日に開かれた新潟市の会見。市保健衛生部の野島晶子部長(59)は、最近も学校関係の感染者がいる家庭に嫌がらせの電話があったと明かした。

 その上でこう訴えた。「誰が感染してもおかしくない中にいる。『自分が感染した時に嫌なことはやめよう』という、本当に単純なことを心に留めてほしい」

◆県内初確認から約10カ月で503人感染

 新潟県内では2月29日に新型コロナウイルス感染者が新潟市で初めて確認され、26日までの約10カ月間に503人が確認されている。

 本県での“第1波”は5月中旬まで続いたが、その後、1カ月以上陽性者は確認されなかった。しかし、7月になって首都圏などを訪れた人の感染が増え、花角英世知事は「第2波に入っている」と説明。

 11月に入ると、警察署や介護老人保健施設、学校などでクラスター(感染者集団)の発生が相次ぐ。12月6日には県内初となる死者も出て、25日までに計3人が亡くなった。

 県は全国と同様に県内も「第3波に直面している」(花角氏)とし、17日に独自に設定している警戒レベルを「警報」に引き上げた。