【2021/05/28】

 ドアを開けて暗いフロアに足を踏み入れるだけで、気持ちが高ぶる。開演前のBGMが流れるライブハウス。「あと何分、あと何分」と、心臓の鼓動が早くなる。ライブが始まれば何も考えずに音に包まれ、終われば友達と「良かったね」と楽しく語り合う。

 上越市のフリーター斉藤響子さん(23)=仮名=は、そんな時間を「人生の中心」と考えている。「自分からライブを取ったら何も残らないくらい」

 音楽好きの両親に連れられ、小学生の頃からライブに行っていた。家や学校では味わえない「非日常」の空間が心地よかった。「ELLEGARDEN(エルレガーデン)」「10-FEET(テンフィート)」など人気ロックバンドが好きになり、地元のライブハウス「上越EARTH(アース)」にも足を運んだ。

 高校卒業後は県外のライブにも1人で行くようになった。バイトの給料をつぎ込み、高速バスで交通費を抑え、旅先の食費を削りながら、年間60、70本のライブに通った。「音源ではなく生で見たい。爆音や熱さは、その場所じゃないと感じられないから」

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 そんな日々を新型コロナウイルスが変えた。目当てのライブの延期や中止が重なり、解散したバンドもあった。当たり前にライブがあると思っていた生活に、ぽっかりと穴が開いた。「何のためにバイトしてたんだっけ」。ライブに行く回数は極端に減った。

 いつの間にかライブハウスが「悪者」のように扱われていた。感染者が出れば、その場に行ったこともない人がネット上で批判する。斉藤さんも知人から「ライブハウスに行くならしばらく近くに来ないで」と言われた。クラスター(感染者集団)の発生などを受け、各ライブハウスが感染対策に努めているのを知っていただけに、安易な「悪者扱い」はふに落ちなかった。

 ライブハウスに騒音や非行のイメージを持っていて、近づきがたい人もいると思う。でも、群衆の中で倒れた人がいれば引き起こすし、靴ひもがほどけた時には近くの人が気付いて結び直す空間を空けてくれる。そんな暗黙の文化も気に入っていた。ウイルス禍でライブハウスが閉店するニュースを目にするたびに寂しくなる。失いたくなかった。

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 5月中旬、自ら企画したライブイベントをEARTHで開いた。「かっこいい同世代のバンドを地元の人に見てほしい」。ライブハウスの中でも、昔から通うEARTHは特別だった。「大切な場所のために何かしたい」という思いも背中を押していた。

 自分で新潟市のバンドなどと出演交渉し、タイムテーブルも考えた。集まった3組のパフォーマンスや思いの詰まったMCを聞きながら、目に涙がにじんだ。

 終演時に沸き起こった拍手。それは次第に、アンコールを求める無言の手拍子へと変わった。「楽しんでもらえてよかった」。自分と同じように音楽を、そしてライブを愛する人たちの思いが、うれしかった。