新潟日報デジタルプラスでは2020年、21年と新潟日報朝刊などでコラム「昇格原稿を書きたいんじゃ」を連載したフリーライターで、長年アルビレックス新潟の取材・情報発信を続ける大中祐二さんの連載コラムを掲載します。
また「大中’s EYE(アイ)」では、最新の試合を通して、今季快進撃を続ける新潟の強さをひもといてもらいます。
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念願の原稿を書くときが、どうやら刻一刻と近づきつつあるようじゃ。12年間暮らした新潟を離れ、ふるさとの愛媛に戻って2年。取材し、発信し続けるアルビレックス新潟は今、J1昇格に向けてひた走っている。復帰がかなえば、実に6年ぶりのことだ。
前任者アルベル(現FC東京監督)によって、この地にもたらされたスペクタクルで攻撃的なサッカーは、松橋力蔵監督の下でさらなる進化を遂げた。自動昇格圏内の2位以内はもちろん、J2優勝を射程に捉えている。
2年前、就任したばかりのスペイン人指揮官に、“新たなスタイルをチームに浸透させるには時間が必要で、場合によっては完成を見ぬままチームを去ることもあり得る。そんな立場は着工から130年たっても未完成のバルセロナのサグラダファミリア大聖堂を設計した建築家ガウディをほうふつさせる”とたずねたことがある。「高い塔を建てる最初の礎石を置くことが私の仕事だ」というのが、問いかけに対する答えだった。
今、その美しい塔は予想を上回るスピードで高く、力強く伸びている。9月25日に行われた第38節・大宮戦に1ー0で勝利したチームは今季初の4連勝を飾り、首位を走る。得点67はリーグ最多、失点32はリーグ2番目の少なさで、得失点35はリーグ最良。このすばらしい数字は、2人続けて新潟の指揮官になるまでプロのトップチームを率いた経験がない監督に鍛えられての成果でもある。

新潟-大宮 後半27分、途中出場の秋山が決め、先制する=ビッグスワン(写真映像部・渡辺善行)
大宮戦の決勝ゴールを挙げたMF秋山裕紀は、おととしは沼津、去年は鹿児島とJ3のチームに期限付き移籍して経験を積んだプロ4年目のボランチで、うれしい新潟初ゴールとなった。
チームとしては今シーズン20人目の得点者であり、特定のストライカーに頼るのではなく、どこからでもゴールを奪える選手層の厚さとチーム力がうかがえる。メンバーを固定せず、抜てきされた選手が活躍するところも松橋アルビの大きな特徴だ。
強く、美しいサッカーで勝ち続けるチームを応援しようと、大宮戦では今季最多の2万811人がデンカビッグスワンスタジアムに詰めかけた。往時の4万人には及ばないが、声を出しての応援が可能になったビッグスワンはポジティブなエネルギーに満ちあふれ、残り2試合となった今季のホームゲームで、新型コロナウイルス感染対策上、上限となる3万5000人に達することを期待せずにはいられない熱量だ。

新潟-大宮 前半、シュートを放つ新潟の伊藤=ビッグスワン
2022年のアルビに魅了され、7月以降、私も毎月、愛媛から新潟に取材に訪れている。残りのホームゲーム第40節・ベガルタ仙台戦、第42節・町田ゼルビア戦も取材予定だ。昇格というすばらしい瞬間が近づく今、チームは、ビッグスワンは、この街は、どのような表情を見せてくれるのか。心から楽しみに取材しながら、コラムという形でお届けしていきたい。
◆[大中’sEYE]「北風と太陽」がもたらすパスサッカーの妙味
第38節・大宮戦(新潟1-0大宮)

新潟-大宮 前半、大観衆の声援を受けてプレーする新潟の選手たち=ビッグスワン
サッカーの試合を見ていると、しばしばイソップ寓話の「北風と太陽」を思い出す。大宮戦もそうだった。
戦いの構図はボールを保持し、主導権を握って攻める新潟に対し、大宮がコンパクトな守りの陣を敷いて構える形となった。新潟のスタイルがよく表れる展開になったわけだ。
しっかり守りを固められると、それを攻め崩し、ゴールを挙げるのは簡単ではない。相手が待ち構えているところに無闇に突っ込んでいけばボールを奪われ、カウンターのピンチになりかねない。ボールを左右、ときには大きく対角に動かして揺さぶることも大事だが、ボールを失うことを怖がり過ぎると、相手のブロックの周りをただ行き来するだけの、“ボールを持たされた状態”になってしまう。
そこで「北風と太陽」だ。寓話では堅く前を閉じた旅人のコートを脱がすために、北風は強い寒風を吹き付けるが逆効果。しかし太陽はぽかぽか陽気で脱がせることに成功するという話だが、サッカーでは北風も太陽も必要というのが私の連想だ。堅く閉ざされたゴールを切り開くため、北風は守備ブロックに大胆に差し込む縦パス、太陽は揺さぶってブロックに隙間を空ける横パスのイメージである。
大宮戦のハーフタイム、松橋監督は横にボールを動かすことに加え、もっと効果的に縦のボールを入れることを選手たちに求めた。72分の秋山の決勝ゴールは、何本ものパスが小気味よく縦方向につながりながら、ズバリと中央を切り崩したすばらしい得点だった。
堅く閉じられた大宮の守備を見事にこじ開けた“北風”。そこに至るまでに効果的に揺さぶった横パスという“太陽”も重要で、二つの対照的なボールの動かし方を絶妙にミックスできるからこそ、新潟のパスサッカーは破壊力が抜群でもあるのだ。
◎大中祐二(おおなか・ゆうじ)1969年生まれ、愛媛県出身。ベースボール・マガジン社で相撲、サッカー専門誌の編集部を経て、2009年に独立。WEBマガジン「ニイガタフットボールプレス」を運営。新潟市から愛媛県へ拠点を移した後もアルビレックス新潟の取材と情報発信を続けている。