物事を分かったつもりになった時が一番危ないと、自分に言い聞かせるようにしている。その時に使うおまじないの言葉がある。「健介、いい気になるな」

 それは幼い頃からの私の性格を考えてのことだ。活発な子どもだったが、調子に乗る癖もあった。何か発見や気づきがあるたびに、家族に自慢気に、朗々と語って聞かせる、そんな少年だった。母や祖母は笑って見ていたが、父は必ず私に「いい気になるな」と釘(くぎ)を刺したものだ。そして...

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