
尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領が非常戒厳を発令し、軍を動員した決断は、韓国を揺るがし続けている。ソウルに出張取材した際に仕事を共にした現地コーディネーターのTさんと、こんな会話があった。
「国会が流血の事態にならずに幸いでしたが、軍が大統領の命令を完遂できなかったのは、皮肉にも、敵対する北朝鮮に隙(すき)を見せることにつながったのでは?」
Tさんは直ちに反論。「軍事政権下なら、軍は自国民に発砲していたかもしれません。しかし兵士は民主主義の世代、戒厳令を正義だとは思わなかった。だから議員や市民を力ずくで排除することは避けたのでしょう」
いろいろな見方がありそうだが、実際、命令と良心の間で戸惑うかのような兵士の映像は多く残されている。結局、戒厳令は本会議場に入った議員によって解除の決議が行われ、発令からわずか6時間でとん挫した。
尹大統領の決断は今も不可解だ。野党多数の国会で手詰まりとなった大統領は、議員の中に、北朝鮮と通じて国家転覆を企てる者などがいると考えるに至ったとされる。また大統領は、根拠なくそうした言説を繰り返すインフルエンサーの動画に見入っていたとの情報もある。孤独に苛(さいな)まれる中、SNSで語られる「陰謀説」に踊らされたのだろうか。
世界を見渡せば、翻弄(ほんろう)する側とされる側の差こそあれ、SNSに依存する指導者は少なくない。中には国のかじ取りを任せるには危なっかしく思える指導者も。アメリカのトランプ次期大統領も...
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