
日本初の女性弁護士の一人で、新潟家庭裁判所長を務めた三淵嘉子さんがモデルとなったNHK連続テレビ小説「虎に翼」。時代を切り開く主人公の奮闘ぶりや、社会問題を正面から取り上げる姿勢が大きな反響を呼んだ。新潟家裁で三淵さんと働いた元家裁調査官の石井葉子さん(78)=新潟市東区=に三淵さんの思い出と、2024年を象徴するドラマを振り返ってもらった。
「虎に翼」は4〜9月に放送され、三淵さんがモデルの主人公の寅子(伊藤沙莉さん)が新潟地家裁三条支部に赴任し、成長する様子が描かれた。
石井さんは大学卒業後、新潟家裁に赴任。新潟に来て4年目の1972年、所長に三淵さんを迎える。

当時、裁判官は男性ばかり。「女性の所長が赴任するらしい」と、職員の間で大きな話題になった。「朝と昼のお茶くみや、灰皿の交換は女性の仕事だった時代。女性の所長がどんな方なのか、まったく想像できなかった」

東京家裁で開かれた三淵さんの就任会見は、マスコミの注目を集めた。「まず、すました顔を…」。カメラマンから求められた三淵さんは「あはは、裁判官らしくですか」と切り返したという。翌日の新聞は、三淵乾太郎さんとの再婚など私生活も含めて報じた。

「会見でプライベートについても話をされていて驚いた。普段から紋切り型ではなく、率直な方だった」
アクティブな三淵さんは、旅行や講演活動で新潟県内各地を飛び回った。
村上市出身の職員の案内で村上の奥三面に有志と旅行をしたときは、「重箱いっぱいのハラコをお土産に買って、笑顔だった」。また、十日町雪まつりでは乾太郎さんと腕を組んで歩いている姿が職員に目撃されている。


三淵さんはざっくばらんな性格でコミュニケーション能力も高かった。
当時の公務員住宅は、築年数が進み「足軽長屋」と呼ばれていた。懇親会の後、三淵さんが「足軽長屋に行ってみたい」と言い出したことがあった。総務課長が急いで妻に電話するなど、職員たちは大慌て。「足軽長屋」で三淵さんが向かいがてらに買った日本酒を飲みながら、車座になり2次会を楽しんだ。
「所長室にこもり、顔も名前も分からない所長もいた。三淵さんは、その何百倍ものエピソードと印象を残した」
三淵さんは1949年に発足した家裁の設立に関わり、少年事件にも強い思い入れがあった。「所長になるより、少年事件に集中したい」という言葉の通り、少年審判を精力的にこなした。
「分配される以上の事件を担当していたと思う。鑑別所に入るような重い事件も自ら担っていた。一緒に家裁を立ち上げた人たちから託された思いを、実践されているように映った」

少年に向けるまなざしは、温かかった。審判廷ではいつも机に身を乗り出すように話を聞き、少年を尊重する言葉を選んでいたという。
「審判廷にはピリピリ、ハラハラではなく、温かい空気が流れていた。肩書や立場に関係なく対等性を体現していた三淵さんならではの空間だった」
石井さんにとって、印象的な出来事がある。試験観察の一環で、...