J2降格の瀬戸際に立たされたアルビレックス新潟。12月8日に行われるJ1最終節の相手は、新潟にとって「鬼門」といえる浦和レッズです。J2時代やカップ戦も含めた通算成績は新潟の5勝30敗6分け。このうちJ1リーグ戦に限ると1勝24敗6分け、この20年間でたった「1勝」しかしていません。それでは、歴史的ともいえる「1勝」を挙げた試合は、どんな試合だったのでしょうか。2006年7月19日、ホームのビッグスワンで行われたJ1第13節浦和戦。伝説の名勝負を当時の取材メモと写真で振り返り、J1残留に向けて気持ちを奮い立たせましょう!

◆上位対決、平日夜に4万人!  

 2006年の新潟はJ1昇格3年目。チームをJ1へと導いた反町康治監督が退任し、鈴木淳監督が指揮を執る最初のシーズンとなりました。第12節を終えて順位は6位と好調。対する浦和はリーグ2位で、注目の上位対決となりました。

新潟の指揮を執る鈴木淳監督

 ドイツワールドカップによる中断明けの一戦ということもあり、平日午後7時のキックオフにも関わらず、スタンドには38592人の観客が詰めかけました。

ゴール裏の新潟サポーター

 対する浦和は元ドイツ代表のギド・ブッフバルト監督の指揮の下、DF田中マルクス闘莉王、DF坪井慶介、MF長谷部誠、MF鈴木啓太、MF三都主アレサンドロ、FW田中達也ら攻守に代表クラスのスター選手が勢ぞろい。さらに、欧州に挑戦していたMF小野伸二が復帰し、Jリーグ史上に残る「レッズ黄金時代」を迎えようとしていました。

浦和に復帰した小野伸二

 新潟戦は点取り屋のFWワシントンとMFポンテが負傷欠場し、長谷部も出場停止となったものの、田中達也が故障から戦列復帰。「最強レッズ」を相手に新潟がどんな戦いを見せるのか、新潟サポーターの間で今も語り継がれる伝説の一戦が幕を開けます。

〈新潟〉ホーム
▽スターティングメンバー
GK  1 北野 貴之
DF  2 三田 光
DF 19 海本 慶治
DF 26 中野 洋司
DF  5 梅山 修
MF 18 鈴木 慎吾
MF  8 シルビーニョ
MF 16 寺川 能人
MF  9 ファビーニョ
FW 11 矢野 貴章
FW 10 エジミウソン
(ベンチ入りメンバー)
GK 21 野澤 洋輔
DF 31 藤井 大輔
MF 35 松下 年宏
MF 13 宮沢 克行
MF 32 田中 亜土夢
MF 20 岡山 哲也
FW 14 中原 貴之

 

〈浦和〉アウェー
▽スターティングメンバー
GK  1 山岸 範宏
DF 20 堀之内 聖
DF  4 田中 マルクス闘莉王
DF  2 坪井 慶介
MF 14 平川 忠亮
MF 13 鈴木 啓太
MF 18 小野 伸二
MF  8 三都主 アレサンドロ
MF  6 山田 暢久
FW  9 永井 雄一郎
FW 11 田中 達也
(ベンチ入りメンバー)
GK 23 都築 龍太
DF  3 細貝 萌
DF 19 内舘 秀樹
MF  7 酒井 友之
MF 16 相馬 崇人
FW 12 黒部 光昭
FW 30 岡野 雅行

 

◆慎吾、ファビ、エジ躍動!

 試合は新潟の速攻から始まりました。前半1分、左SB梅山修のロングパスを新潟が誇るサイドアタッカー鈴木慎吾が中央に持ち込みシュート。得点にはなりませんでしたが、強豪相手に先制パンチ。ゲームを支配することに成功しました。

ドリブル突破を図る鈴木慎吾

 その後も鈴木、MFファビーニョの両翼を中心に3バックの浦和守備陣を翻弄します。

サイドの起点となったファビーニョ

 そして前半12分、クロスのこぼれ球をFWエジミウソンがミドルシュート!幸先良く先制点を奪いました。

 試合翌日の新潟日報はエジミウソンの活躍を次のように伝えました。

ゴールを狙うエジミウソン
 3月末に負傷で戦列を離れてから3カ月半。サポーターが待ち望んでいたエジミウソンの復帰初ゴールは、前半12分に生まれた。ゴール前でクリアボールを拾い右足でシュート。相手DFに当たったボールは、サポーターの願いに押されるように、左ポストをかすりながらゴールに吸い込まれた。
 後半40分に足がつって後退するまで、攻守に動き回った。前半35分にはカウンターから相手GKのポジションを見て、思い切ってロングシュート。リフティングで相手の寄せをかわす個人技も見せて、スタジアムを沸かせ続けた。「(負傷している間は)苦しい時期だったけど、家族やみんなの支えで頑張ることができた」。ブラジルから来ている両親や周囲への感謝の言葉を忘れず、ゴール後は身ごもっている自身の妻と、子どもが生まれたスタッフへの思いを込めて、チームメートとともに揺りかごのパフォーマンスを披露した。
 強豪浦和からの勝利、自身のゴールと、いいことずくめだったが、最後はフル出場できなかった点を挙げて「つぎは90分できるように努力したい」と次戦を見据えた。(2006年7月20日、新潟日報)

◆猛攻をしのぐ!

 ただ、このまま黙っている浦和ではありません。小野や三都主を起点に反撃に出ます。セットプレーでは闘莉王がゴールに迫りますが、新潟はGK北野貴之の好セーブでピンチをしのぎます。闘莉王にはFW矢野貴章がきっちりマーク。前半を1-0で終えました。

ゴール前で競り合う新潟と浦和の選手たち
 中断前に続いて先発GKを務めた北野が、浦和の矢のようなシュートを防ぎ続けて勝利に貢献。集中力が切れかかった終盤にFKから失点したが、決定的なピンチもシュートが正面に来るなど、運も味方に付けた。
 「浦和はヘディングが強いチーム。クロスボールに対して出るところと出ないところの判断に気をつけた」と振り返り、「次の試合は勝利は当然。(失点)ゼロで勝ちたい」と言葉を残した。(2006年7月20日、新潟日報)

 ◆「秘策」が炸裂!

 後半は一進一退の攻防が続きましたが、15分を過ぎると浦和の3バックが新潟陣内にボールを持ち出す機会が増え、バックラインは下がり気味に。ファウルもかさみ、浦和サポーターのボルテージが一気に高まってきます。浦和は22分にFW黒部光昭を投入し、攻勢を強めました。 

 そんな悪い流れを断ち切ったのは後半25分、...

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