【2021/02/17】
優しかったわが子は、急に変わってしまった。新潟市の主婦、原恭子さん(63)=仮名=の息子は20年ほど前、ギャンブル依存症になった。
高校卒業後、勤務先の人に誘われてパチンコを始め、のめり込んだ。消費者金融から借金し、「仕事の道具を買うため」とうそをついた。家にあった現金を盗んだこともある。仕事は欠勤が重なり、解雇に。新潟県外の回復施設に連れて行ったが、すぐ逃げ出した。新潟で別の仕事に就いたものの、パチンコと借金は続いた。
「息子を殺して死のう」。そんなことまで考えてしまうほど追い詰められた。息子のことを思い手助けをしてきたが、依存症家族の自助グループから助言を受け、息子に家を出て行かせた。その後、息子は窃盗事件などを起こし、何度か逮捕された。裁判で回復施設への入所を約束したが、執行猶予判決の直後に失踪した。刑務所の面会で治療を促しても、首を縦に振らなかった。
今、30代後半になった息子がどこで暮らしているのかは分からない。「差し伸べた手をつかまなかったのは彼自身。息子が選んだ道なので仕方ない」。どこかで依存症の回復につながっていてほしいと祈るしかない。
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新潟日報社が昨年12月に行ったアンケートでは、依存症が家族を巻き込む一面がうかがえる。新潟市の30代女性は「夫が結婚当初、生活費を全額パチンコで使った」、長岡市の60代女性は「きょうだいが給料を何も考えずパチンコに使い、大変だった」と明かした。
県のギャンブル依存症専門医療機関に指定されている、かとう心療内科クリニック(新潟市江南区)の加藤佳彦院長(63)は「家族は裏切られ、怒りや恨みを抱えて疲労している」と話す。
患者本人から暴力を受けたり、近所への恥ずかしさで外出できなかったりする人も少なくないという。「まずは自身をいたわってほしい。家族がくたくただと治療も進まない」とし、行政への相談や自助グループへの参加のほか、趣味など自分の時間を持つよう呼び掛ける。
その上で、家族が依存症を支えてしまう「共依存」をやめるよう訴える。典型例が借金の肩代わりだ。
加藤院長によると、借金を立て替えてもらった人は一時的にギャンブルをやめても、いずれは「いくら借りても構わない」と考え、逆効果となる。同居家族が気を付けても、祖父母らが借金を返すケースもある。「心を鬼にすることが最大の援助。共依存をやめれば、本人が自分を依存症と理解することにつながる」と語る。
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原さんも息子の借金を立て替えた。脅しめいた業者の督促電話が何度も鳴った。何より「まだ若いのに借金なんて」とショックだった。結局パチンコは止まらず、「息子に申し訳ないことをした」と振り返る。
疲れ切った自分を支えてくれたのは、同じように依存症者を家族に持つ「仲間」だった。息子が依存症になった直後から、県外の自助グループに通い続けた。参加者と語り合い「一人じゃない」と分かった。県内で自ら家族の自助グループをつくった。
今は公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」新潟支部の一員として、依存症の啓発や予防に取り組む。経験が誰かの役に立てば何よりの喜びだ。
息子の誕生日が近づくと「元気でいるかな」と思う。これまで苦しいことがたくさんあった。でも、だからこそ多くの仲間とつながることができた。