【2021/02/23】
2月上旬の平日、新潟市中央区のパチンコ店「ミッド・ガーデン堀之内店」に続々と客が入る。きらびやかな店内とは対照的に、主張を抑えたポスターが掲げられていた。「ひとりで悩まず、お電話ください」。パチンコ依存の相談窓口案内だ。
全日本遊技事業協同組合連合会などによると、新潟県のパチンコ店舗数は2019年12月現在で全国19位の165店。人口10万人当たりでは7・37店と、全国(7・58店)をやや下回るが、都市部から山沿いまで県内各地にある。
身近なだけに、パチンコの依存症者は各種ギャンブルで最も多いと言われる。そうした中で業界も対策を進めている。
その一つが本人や家族の申し出で、のめり込みを抑えるプログラム。客の決めた上限金額や時間に達したら店側が知らせたり、家族の申告で入店制限ができたりする。内容は各店で異なるが、県内では1月下旬時点で99店が導入している。
また、依存症の講習を受けた店員を「安心パチンコ・パチスロアドバイザー」に認定。のめり込んでいる客に声を掛け、相談窓口を紹介するなどしている。
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競馬も対策を取っている。日本中央競馬会(JRA)は、他の公営競技と共に、臨床心理士による相談窓口を設置。本人や家族の申請で、競馬場への入場制限やネット・電話投票の停止ができる制度もある。
ただ、制度の利用者は多くない。中央競馬の総参加者数が年1億数千万人に上るのに対し、ネット・電話投票の停止は昨年末までの累計で約2100件。入場制限は34件、新潟競馬場では2件にとどまる。
各業界の対応に、依存症者や家族を支援する公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」の田中紀子代表は「依存症対策をやってますというアピールでしかない。当事者や家族と話し合って真の対策を進めるべきだ」と語る。
パチンコ店の入店制限にも懐疑的だ。昨年、新型コロナウイルス対策による自治体の休業要請に応じない店に、客が詰めかけた事例もあったことから、「一部で入店制限しても、別の店に行ければ意味はない。全店で導入する必要がある」と訴える。
講習を受けた店員による声掛け対策も疑問視する。「それで何とかなるなら、家族がこんなに長く苦しむことはない」
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若年層へのギャンブルの浸透も課題だ。考える会への相談では、高校生から始めた例が多いという。一方でJRAやパチンコ店は人気俳優や芸人によるテレビCMを流し、若者らにアピール。新潟競馬場には遊具が置かれ、家族連れを呼び込んでいる。
専門医によると、低年齢でギャンブルの場に慣れ親しむのは、依存症のリスク要因になり得るという。田中代表は「たばこのタスポ(成人識別カード)のように、年齢制限をきっちり守るシステムが必要。若者やファミリー層を取り込む戦略はやめるべきだ」と求める。
JRAのCMでは人気俳優が競馬の面白さを伝えた後、一瞬だけ下の方に小さな文字で「馬券は20歳になってから、ほどよく楽しむ大人の遊び」と流れる。
競馬で数百万円の借金を背負い、依存症の回復を目指す下越地方の20代男性は「楽しそうなCMを見て、やってみようと思う若者は多いだろう」と推測する。国内にカジノまでできようとしている今、ギャンブル業界にこう望む。「依存症の怖さも伝えてほしい」