【2021/02/19】

 数年前、新潟県内の裁判所。勤務先の金に手を出して逮捕、起訴された30代男性が事件に至る経緯を語った。「FXで金銭感覚がアンバランスになっていた。100万円や200万円の金額が大きいとは考えなかった」

 FXとは「外国為替証拠金取引」のこと。円やドルなど、刻一刻と変わる為替の値動きを予想して売買し、利益を求める投資だ。スマートフォンを使って少額から始められ、元手の何倍ももうかることがある半面、多額の損失を出す恐れもある。投機色が強く、ギャンブルの要素があるとされている。

 男性も一時、大きな利益を得た。それをブランド品や飲食などにつぎ込み、海外のマンションも借りた。仕事のストレスから浪費し「心のバランスを取ろうとした」という。

 給料は「10万円から20万円の間」だった男性。FXの大勝ちが続くはずはない。身の丈を超えた生活は破綻し、クレジットカードの支払いに窮した末、犯行に及んだ。法廷で涙ながらに謝罪し、もう投資はしないと誓った。

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 県指定のギャンブル依存症治療拠点機関、さいがた医療センター(上越市)の佐久間寛之副院長(53)は「最近、立て続けにFX依存の患者が訪れている」と話す。

 ギャンブル依存といえばパチンコや競馬などを思い浮かべるが、FXも「診断基準に当てはまれば依存症」と指摘する。生活費を使う、やめると家族に約束しても守れない、損失を取り戻そうとさらに資金を投じる、借金を重ねる-といった状況は他の賭け事と同様という。

 一方、パチンコなどと比べ、使用額は大きくなりがちだ。しかも為替取引は世界中で行われているため、昼夜を問わず24時間、売買ができてしまう。

 さらに、のめり込んでも資産運用などと考え、本人が依存症と認めたがらないという。佐久間副院長は「普通の資産運用なら、ずっと値動きを見続けて1日に何回も金を動かしたり、人間関係を壊してまで続けたりはしない」と訴える。

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 スマホでできるFXと同様、ネット時代ならではの手軽さは、公営ギャンブルにも広がる。

 下越地方の20代男性は4年ほど前から、競馬の依存症に苦しんでいる。かつては年に1、2回、新潟競馬場に友人と行く程度で、純粋に楽しんでいた。

 それがいつの間にかスマホで馬券を買うようになった。現金のやりとりがなく、画面の操作だけで容易に賭けられる。金額は増え、1レースに100万円を投じたこともある。「周りに止める人はいない。金銭感覚が異常になっていった」

 ネットの拡大は数字に表れている。日本中央競馬会によると、売り上げに占めるネット・電話投票の割合は2011年に58・7%だったが、19年は70・3%と年々増加。新型コロナウイルスの感染拡大で無観客開催が続いた昨年は、92・7%に上った。

 ウイルス禍で自粛生活が続き、多くの人が思うように余暇を楽しめずにいる。首都圏などの競馬場は今も無観客だ。自分と同じように、ネットで競馬にのめり込む人が増えるのでは…。男性は依存症の回復を目指しつつ、そんな心配を抱く。

 佐久間副院長は警鐘を鳴らす。「スマホで手軽にギャンブルにアクセスできるのは一つのリスク。利便性を高めれば、はまる人は必ず出てくる」