【2021/02/16】

 競馬や競輪、パチンコ…。世の中にはギャンブルがあふれている。「あの勝ちをもう一度」とさらに賭けるが、そう幸運は続かない。興奮を得るため賭け金を増やし、負けを取り戻そうと借金を重ねる人がいる。家庭や人間関係が破綻するケースも少なくない。最近では投資に異常なほどのめり込む人も出てきた。「依存症を考える」第2部は、多額の借金で本人だけでなく周囲も巻き込むことが多い、ギャンブル依存症と向き合う。

 「もうやらない」。どれだけ強く誓っても、無意識に馬券を買ってしまう。勝った時の快感が忘れられなかった。

 新潟県内の40代公務員、佐藤俊哉さん=仮名=は、大学生の頃から競馬にのめり込んだ。落ち込んだり、いらついたりすると馬券を買った。嫌なことを忘れられた。

 最初のレースはしっかり分析する。だが、負けが込むと、それを取り返そうとさらに賭けた。「やめなきゃ」と思うのは、資金が尽きた時だった。

 ついには前妻との子どもに掛けていた学資保険の貸付制度で約100万円を借りた。「子どもの金にまで手を付けてしまった…」。県内の医療機関に入院し、3カ月間治療に専念した。

 しかし、退院から数カ月たったある日、今の妻とのふとしたけんかをきっかけに、再び馬券を買ってしまった。賭け始めると持ち金を全て投入するまで止まらない。銀行口座にあった70万円を使い果たした。

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 前の妻にもギャンブルで迷惑を掛けた。20代で結婚。子どもができても競馬はやめられず、生活費に充てるべき金をつぎ込んだ。

 仕事だとうそをつき、競馬場に行った。お金が足りなくなると、妻には内緒で両親に穴埋めを頼んだ。通帳の入出金記録で不審に思われ、お金のことで口論になった。離婚したいと告げられ、子どもとも離ればなれになった。

 そもそも競馬との出合いは子どもの頃だった。休日、家族で競馬場に行くのが楽しみだった。中学生の時、親に頼んで初めて馬券を買った。過去のレースを分析し、的中させた。

 大学生になり、競馬場に通うようになった。初めは大学の仲間と同じように千円程度で楽しんでいたが、どんどんエスカレートし賭け金が増えていった。

 学生ローンで借金を繰り返した。何度も両親に頼み、借金を返してもらった。「競馬は二度とやらない」。そう親に誓ったが、やめられなかった。借金の合計は200万円を超えた。

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 アルコールや薬物と比べ、ギャンブル依存症は外見では分かりにくい。佐藤さんも登山など多くの趣味を持つ。仕事も着実にこなし、職場の仲間から信頼されている。でも競馬に関しては感情のコントロールが難しく、簡単には治らないと感じている。

 幼い頃から何事にも熱心に取り組む性格だった。勉強もできた。特に運動は得意で、高校時代は全国大会に出場した。

 「なんでもできる自分が、なぜ競馬はやめられないのか」。周囲は依存症だと気付かず、自分も病気であることを隠した。

 誰にも相談せず1人で失敗を繰り返し、症状は悪化した。入院する前、医師に「今まで苦しかったですね」と言われた。涙が出た。

 退院後も通院し、自助グループにも参加している。「やっと依存症の自分を受け入れられるようになった」。この病気を治すスタートラインに立てた気がした。

◆疑いは推計70万人 2017年政府調査

 ギャンブル依存症とは、ギャンブルをしたいという衝動を抑えられなくなる精神疾患だ。

 ギャンブルで勝つと脳内にドーパミンという快楽物質が分泌され、分泌が繰り返されると脳が快楽を感じにくくなり、さらなる刺激を求めることで依存症になるとされている。

 主な症状として、興奮を得るため多くのお金が必要になる、中断するとイライラする、ギャンブルのためにうそをつくなどがある。

 政府が2017年に発表した調査では、ギャンブル依存が疑われる人は1年間で推計約70万人、生涯で依存を経験した疑いのある人は推計約320万人に上った。

 治療薬はなく、依存症者同士が語り合う自助グループに参加したり、専門医からさまざまな心理療法を受けたりして回復を目指す。