(絵:100%ORANGE)
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 本と絵とレコードだけに触れてすごした10代のぼくは、数学が苦手だった。なんとか滑りこんだ大学に、名物教授の森毅さんがいた。森先生の書いた数学エッセーには長く親しんでいた。

 講義初日の大教室は超満員で立ち見が出た。ボロボロの革ジャケット、ポケットに手をつっこみ、先生はくわえたばこで入ってきた。

 「受験おつかれさん。じゃあ、優秀な学生のみなさんに、ひとつ質問があります」

 頭をかきかき、森先生はいった。

 「数学において、数って、いくつまで勘定できたらエライと思いますか。はい、きみ」

 指された学生は、無量大数でしょうか、といった。先生は首をかしげ、

 「それはな、数学やのうて、仏教。宗教学。はい、次の...

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