(絵:100%ORANGE)
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 春うららの京都・鴨川。右岸のベンチにポータブル蓄音器をすえ、リュックからレコードの束を取りだす。ひとびとの気配が、音楽の予感に波うつ。

 1曲目は「春に寄す」。北欧の作曲家グリーグのみじかいピアノ曲。音の粒子がきらめく。長い冬をこえ、国境や時代もこえて、同じこの季節をむかえられたことへの感謝、深いよろこび。

 「電気つこてへんのでしょう」

 と、上品そうな紳士が声をなげる。

 「それでよう、こんなええ音でますなあ」

 2曲目は、作曲家ラヴェル本人の指揮による「ボレロ」。約100年前の録音。ここに立つ木々もそのころは幼木だった。リズムの1拍ごと、メロディーのふくらみごと、音楽とともにさくらたちも成長する...

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