【本研究のポイント】
・路車協調型の自動運転サービスを支援するための、車両、路側機注1)、クラウドをつなぐ情報通信プラットフォームを開発。
・ソフトウェアをオープンソースで公開、誰でも自由に利用可能。
・千葉県柏市柏の葉地域でのレベル4自動運転注2)にて利用実績あり。


【研究概要】

 名古屋大学未来社会創造機構モビリティ社会研究所注3)および同大学院情報学研究科附属組込みシステム研究センター注4)の高田 広章 教授らの研究グループは、情報通信プラットフォーム「ダイナミックマップ2.0」をオープンソースソフトウェアとして公開しました。
 運転手不足問題の解決や、さらなる交通安全の実現に向けて、自動運転に注目が集まっています。しかし日本の一般道路は道幅が狭く、街路樹・建造物によって見通しの悪い交差点が非常に多いため、車載センサだけに頼った自動運転では、死角からの飛び出しに備えた低速度での走行が必要になり、安全かつ円滑に走行できる場所が限られるのが実状です。そこで、高田教授らのグループは研究コンソーシアム注5)を立ち上げ、同志社大学モビリティ研究センター注6)のメンバーとも連携して、路側機からのセンサ情報や信号機からの灯色情報などを、自動運転車両に共有することで視野外の状況を伝えられる、協調型の自動運転支援のためのソフトウェア開発を行ってきました。
 本ソフトウェアは、車両、路側機、クラウドをつなぐ情報連携を支援するための基盤ソフトウェアです。路側機のセンサが提供する物標情報注7)とフリースペース情報注8)、信号機が提供する灯色情報と残秒数(灯色が変わるまでの残り時間)、さらに自動運転に必要な高精度道路地図を扱うことができ、独自の仕様で出されることが多いこれらの情報に対して、無線方式にも依存しない共通インターフェースを提供します。情報の仕様の共通化は、効率的なソフトウェア開発において重要な意味を持ちます。そして今回、ダイナミックマップ2.0をオープンソースソフトウェアとして公開することで、この共通インターフェースを広く誰でも無償で利用できるようになります。協調型の自動運転を導入する際のコストを下げて、国内の多くの実証実験地域で使えるようにすることが目的です。
 本ソフトウェアは、2026年5月15日付で github にて公開されます。オープンソースソフトウェアラインセンスに従って、個人・組織を問わず無償利用が可能です。

【研究背景と内容】

 近年、自動運転システムや高度安全運転支援システムの開発・普及が進んだことにより、高精度なセンサと通信装置を積んだ車両が街中を走行することが多くなってきています。しかし、単独のセンサではカバーできる範囲に限りがあり、さらに街中にはセンサを遮る障害物も多いため、車両単体で観測できる領域は十分広いとは言えません。そこでさらなる交通安全の実現には、車両同士や道路インフラ装置との間で通信を行って、複数のセンサの情報を交換・共有することで、認識できる範囲をお互いに拡張することが重要になってきています(図1)。

図 1 車載センサのみの自動運転(左)と路車協調型の自動運転(右)

 センサが検知し、通信によって共有された情報は、まだ単独では交通ルール上の意味が与えられていません。高精度道路地図や信号情報などの他の情報と組み合わせて理解することで、初めて物体と車線や物体同士の交通ルール上の関係を解釈できるようになります。センサなどの情報を高精度道路地図上で意味付けして検索・統合利用できるようにしたシステムは、「ダイナミックマップ」と呼ばれています。ダイナミックマップは、自動運転等の高度な交通サービスを支える上で必要な情報基盤と位置づけられており、日本国内では内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム・自動走行システム(SIP-adus)のプロジェクト内で重点分野の一つとして扱われています。世界的にも、NDS、ADASIS、TISA、SENSORISなどの業界団体が連携して、通信で共有されたセンサなどの情報と高精度道路地図を扱う仕組みが検討されています。  
 名古屋大学と同志社大学は、2016年から、複数の企業・非営利組織で構成されたコンソーシアム型の共同研究組織を立ち上げ、次世代のダイナミックマップの研究開発を続けてきました。本研究コンソーシアムのソフトウェア成果物である「ダイナミックマップ2.0プラットフォーム(DM2.0PF)」(図 2)は、車載システムやスマートフォン等の組込み環境、道路脇の路側機・通信基地局などのエッジ環境、データセンターのクラウド環境の、三階層にまたがった通信連携を行う分散データベースシステムとして実現されました。ダイナミックマップ2.0の先行導入実績として、経済産業省・国土交通省『自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト』注9)(テーマ4. 混在空間でインフラ協調を活用したレベル4自動運転サービスの実現に向けた取り組み)[2021-2025年度]で行われた、千葉県柏市柏の葉地域(図3)でのレベル4自動運転があります注10)。ダイナミックマップ2.0のソフトウェアが、自動運転バスの車載機、公道4カ所の交差点に設置された路側機、クラウドのそれぞれで動作し、連携して情報提供する役目を担いました。信号機からの灯色情報と残秒数は、バスの運転制御に使用され、交差点進入の判断に活用されました。路側機センサからの物標情報とフリースペース情報については、2025年度時点での交通ルールに従い、運転制御に使われない参考情報として、バス車内のディスプレイや遠隔監視のスタッフへ提供され、交差点内の様子がリアルタイムで確認できるようになりました。これらの機能は、柏の葉地域だけではなく、全国の協調型の自動運転を必要としている地域すべ
てで有効活用できるものになっています。

図2 ダイナミックマップの基本概念(左)と分散アーキテクチャ(右)

図 3 ダイナミックマップ2.0導入事例:千葉県柏市柏の葉地区での協調型自動運転注11)

【成果の意義】

 現在、日本では自動運転の実用化に向けて各地で実証実験が行われており、その中にはインフラ協調もありますが、その通信仕様は共通化されておらず、互換性や拡張性の問題を抱えています。このまま乱立が進むと、各車両には複数の種類の通信システムの搭載が求められてしまいます。それに対して世界的には、ISOにおいて協調型自動運転に向けた協調ITS通信アーキテクチャが標準化されており、欧米ではこの仕様をもとに協調型自動運転に向けたシステムの相互接続テストや実証実験がすでに開始されています。日本においてはITSのための無線通信の周波数(5.9GHz帯)を新たに確保する動きが進んでおり、これを機に、この広帯域の通信をもとにした信頼性確保や高性能データ処理、セキュリティ確保のための技術を取り入れた協調型自動運転のための情報通信プラットフォームの共通仕様の策定、および、リファレンスとなるソフトウェアの開発が必要です。DM2.0PFをこのタイミングでオープンソースソフトウェアとして公開することには、これをリファレンスとして利用し、さらなる信頼性と効率化向上の仕組みやアプリケーションの開発、相互接続テストなどにつなげていくという狙いがあります。
 個別の実証実験においても、路車協調型の自動運転を実現する場合に、DM2.0PFを基盤として自由に導入・利用できることで、インフラ側のソフトウェア開発をゼロから行わなくてよくなり、開発効率の向上に寄与します。これは路車協調型の自動運転の実用化を加速するうえで、非常に重要な利点といえます。
 
 本研究の一部は、2021年度~2025年度の経済産業省・国土交通省『自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト』(テーマ4. 混在空間でインフラ協調を活用したレベル4自動運転サービスの実現に向けた取り組み)の委託事業として行われたものです。

【用語説明】
注1)路側機:
LiDARやカメラなどのセンサ、物体認識処理のための小型のコンピュータ、通信装置を搭載した装置。

注2)レベル4自動運転:
特定の条件・範囲内において、人間の運転手を必要とせず、システム主体で行われる自動運転。運転手が常にハンドルを握っていて、運転手の責任で行われるものはレベル2自動運転として区別される。

注3)名古屋大学未来社会創造機構モビリティ社会研究所:
研究代表者の所属組織。https://www.gremo.mirai.nagoya-u.ac.jp/

注4)名古屋大学大学院情報学研究科附属組込みシステム研究センター:
研究代表者の兼務組織。https://www.nces.i.nagoya-u.ac.jp/

注5)先進モビリティサービスのための情報通信プラットフォームに関するコンソーシアム:
ダイナミックマップ2.0のソフトウェアを開発した研究コンソーシアム。
https://www.nces.i.nagoya-u.ac.jp/admobi-dm2/index.html

注6)同志社大学モビリティ研究センター:
研究コンソーシアムのメンバーの所属組織。https://mrc.doshisha.ac.jp/

注7)物標情報:
道路上に存在する物体に関する、位置座標、大きさ、物体種別(車両、歩行者など)、向きなどに関する情報。

注8)フリースペース情報:
道路上で物体の存在しない領域。自動運転車両を通行させても問題ないことがセンサ検知により確定している領域。

注9)経済産業省・国土交通省『自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト』:
自動運転の実証実験・社会実装のためのプロジェクト。https://www.road-to-the-l4.go.jp/

注10)経済産業省ニュースリリース「一般道における中型バスでのレベル4自動運転による運行を開始します」:
2026年1月13日に発表された、千葉県柏市柏の葉地区の自動運転バスの営業運行開始のニュース。

https://www.meti.go.jp/press/2025/01/20260113001/20260113001.html

注11)協調型自動運転:
車載センサだけではなく、路側機や周囲の車両からの情報を活用して行われる(レベル4以上の)自動運転。

【ソフトウェア配布元】
プロジェクト名: Dynamic Map 2.0 Platform
URL: https://github.com/dm20-consortium/dm20
ライセンス形態: MITライセンス

▼本件に関する問い合わせ先
名古屋大学総務部広報課
TEL:052-558-9735
FAX:052-788-6272
メール:nu_research@t.mail.nagoya-u.ac.jp

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/