東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)乳腺科学分野および横浜市立大学(学長:石川義弘/横浜市金沢区)大学院医学研究科 乳腺・内分泌外科学(クロスアポイントメント)の石川孝主任教授および成井一隆准教授と山田顕光准教授の研究チームは、閉経後ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対するCDK4/6阻害剤パルボシクリブによる治療に関する大規模多施設共同前向き観察研究を実施しました。

その結果、パルボシクリブの使用方法として、ホルモン剤単独で病勢進行後に導入する二次治療は、初回治療からパルボシクリブを併用する一次治療と比較して予後に差がない可能性が示されました。有害事象や経済毒性を考慮すると、本研究結果は、CDK4/6阻害剤の治療シークエンスを再考するうえで重要な知見と考えられます。

この研究成果は、2026年5月29日、BioMed Central社が発行する国際学術誌 Breast Cancer Research に掲載されました。


【概要】 

東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)乳腺科学分野および横浜市立大学(学長:石川義弘/横浜市金沢区)大学院医学研究科 乳腺・内分泌外科学(クロスアポイントメント)の石川孝主任教授および成井一隆准教授と山田顕光准教授の研究チームは、閉経後ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対するCDK4/6阻害剤パルボシクリブによる治療に関する大規模多施設共同前向き観察研究を実施しました。

その結果、パルボシクリブの使用方法として、ホルモン剤単独で病勢進行後に導入する二次治療は、初回治療からパルボシクリブを併用する一次治療と比較して予後に差がない可能性が示されました。有害事象や経済毒性を考慮すると、本研究結果は、CDK4/6阻害剤の治療シークエンスを再考するうえで重要な知見と考えられます。

この研究成果は、2026年5月29日、BioMed Central社が発行する国際学術誌 Breast Cancer Research に掲載されました。

【本研究のポイント】

・  ホルモン受容体陽性HER2陰性の転移・再発乳癌において、パルボシクリブをはじめとするCDK4/6阻害剤の登場により治療成績は大きく向上している。

・ 現在の治療ガイドラインでは、再発時に最初から、すなわち一次治療としてホルモン療法とCDK4/6阻害剤の併用が推奨されている。

・  一方で、一次治療からのCDK4/6阻害剤の併用によって、病勢進行までの期間の延長は示されているものの、生存期間の延長はあきらかではない。

・  ホルモン受容体陽性乳癌では長期にわたる治療が必要であり、CDK4/6阻害剤特有の有害事象や経済毒性は無視できない課題となっている。

・  CDK4/6阻害剤を一次治療で使用する群と二次治療で使用する群を比較したランダム化比較試験(SONIA試験)で、二次治療での使用の妥当性が示された。

・  本研究はパルボシクリブ治療に関する大規模多施設共同前向き観察研究であり、その有効性

   と安全性を検証した。

・  その結果、SONIA試験の知見をリアルワールドデータで支持する結果が得られ、パルボシクリブを二次治療で導入する治療戦略の妥当性が示された。

【研究の背景】

ホルモン受容体陽性HER2陰性の転移・再発乳癌に対する治療では、従来、ホルモン療法が第一選択とされていました。したがって、生命を脅かすような臓器転移がない場合には、ホルモン剤単独で治療を開始し、病勢進行時に別のホルモン剤へ変更する治療戦略が一般的でした1)。さらに初回のホルモン剤に反応する症例では、その後のホルモン剤にも一定の効果が期待できるため、ホルモン療法を継続し、ホルモン療法抵抗性となった段階で化学療法へ移行していました。そのため、各症例の女性ホルモンに対する感受性を評価しながら治療戦略を立てることが重要と考えられていました。

その後、パルボシクリブをはじめとする3種類のCDK4/6阻害剤が開発され、いずれもホルモン剤との併用によって無増悪生存期間(Progression-Free Survival:PFS)を有意に延長することが示されました2)。これらの結果を受けて、現在の治療ガイドラインでは、ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌に対する一次治療として、ホルモン剤とCDK4/6阻害剤の併用が推奨されています。

一方で、CDK4/6阻害剤の併用によりPFSの延長は示されているものの、全生存期間(Overall Survival:OS)の延長については必ずしも一貫した結果が得られていません。また、CDK4/6阻害剤には特徴的な有害事象があり、パルボシクリブでは高頻度に好中球減少症が認められています。さらに、長期間にわたる治療が必要となることから、高額な薬剤費による経済毒性も無視できない課題となっています。

このような背景のもと、CDK4/6阻害剤を一次治療から使用するべきか、それともホルモン療法単独で開始して病勢進行後に導入するべきかという「治療シークエンス」の重要性が注目されるようになりました。これを検証したランダム化第III相試験がSONIA試験であり、一次治療からCDK4/6阻害剤を併用する群と、二次治療で導入する群が比較されました。その結果、2回目の病勢進行までの期間(PFS2)は両群で同等であった一方、一次治療群では副作用および医療費が増加することが報告されました。SONIA試験は2024年にNature誌に掲載され3)、乳癌領域の治療戦略を検証した臨床試験が総合科学誌に掲載されるという極めてまれな成果として大きな注目を集めました。

本研究は、日本人の閉経後ホルモン受容体陽性転移・再発乳癌患者を対象に、パルボシクリブ治療の有効性および安全性を評価するとともに、SONIA試験で示された二次治療戦略の妥当性をリアルワールドデータで検証することを目的として実施された大規模多施設共同前向き観察研究です。

【本研究で得られた結果・知見】

2019年4月より症例登録を開始し、2023年1月に目標症例数である700例の登録を完了しました。本解析では、2023年9月30日時点までの追跡データを用いました。

解析対象となった症例は、一次治療246例、二次治療282例、三次治療以降65例でした。主要評価項目であるPFSの中央値は、一次治療群で25.8か月、二次治療群で18.0か月、三次治療以降群で12.0か月でした(図1)。

本研究の試験デザインの参考となったパルボシクリブの大規模第III相試験では、PFS中央値は一次治療群24.8か月、二次治療群9.5か月と報告されているので2)、本研究では一次治療群はほぼ同等で、二次治療群は良好な結果でした。

これらの結果は、実臨床においてもパルボシクリブが高い有効性を示すことを裏付けるとともに、二次治療として使用しても十分な治療効果が期待できる可能性を示しています。

図1: PFSのカプランマイヤー曲線:一次治療群(青)、二次治療群(緑)、三次治療以降群(赤)

副次評価項目のPFS2は、一次治療群ではパルボシクリブ療法開始から次治療で病勢進行を認めるまでの期間、二次治療群では前治療のホルモン療法開始からパルボシクリブ療法で病勢進行を認めるまでの期間と定義しました(図2)。

図2: PFS2の定義(Cohort A:一次治療群、Cohort B:二次治療群)

結果は、PFS2中央値が一次治療群で36.4か月、二次治療群で57.9か月でした(図3)。SONIA試験のPFS2中央値は一次治療群30.1か月、二次治療群26.8か月と両群で同等でしたが、本研究では二次治療群のPFS2が大きく上回る結果となりました。

図3: PFS2のカプランマイヤー曲線(一次治療群:青、二次治療群:緑)

本研究において二次治療群のPFS2が一次治療群を大きく上回った要因として、二次治療群ではホルモン剤単独で治療を開始した後、急速な病勢進行のため化学療法が選択されるなどの理由で、パルボシクリブ療法に移行できなかった症例、すなわち予後不良な症例が除外されているためと考えられます。

そこで、SONIA試験のデータを参考に、そのような症例を補正した感度解析を実施しました。その結果、一次治療群と二次治療群のPFS2は近似して、SONIA試験を再現する結果となりました(図4)。

図4: PFS2の感度解析のカプランマイヤー曲線(一次治療群:青、二次治療群+感度解析:緑)

SONIA試験のデータから本試験の二次治療群では約20例程度の症例が化学療法に移行したと考えられるため、その仮想症例10例、20例、30例を加えて、それらのPFSを5,10,15ヶ月と想定した。

本研究で観察された二次治療群の良好な成績は、妥当な患者選択の結果であるとともに、SONIA試験で示された二次治療戦略の妥当性をリアルワールドデータで支持する結果と考えられます。

副作用に関しては好中球減少、倦怠感、脱毛、口内炎が多くみられ、特に好中球減少症はGrade3以上が73.5%に生じて、80%の症例でパルボシクリブが減量されていました。しかし他に問題となる副作用はなく治療は安全に行われていました。

【今後の研究展開および波及効果】

現在、観察期間が不十分で解析できなかった副次評価項目のOSの追跡調査を行っています。すでに解析を終了している患者報告アウトカム(Patient Reported Outcome : PRO)の結果と合わせて、今後報告する予定です。今回の結果から、パルボシクリブ療法の有効性と安全性が確認された一方で、長期間にわたる副作用や高額な薬剤費は重要な課題です。今後、OSおよびPROの結果をもとに、パルボシクリブをはじめとしたCDK4/6阻害剤の適切な導入時期について、より患者中心の観点から議論したいと考えています。

本研究の結果から、腫瘍組織のホルモン受容体発現が高い症例、無再発生存期間が長い症例、あるいは骨転移単独症例など、ホルモン感受性が高いと考えられる患者では、ホルモン剤単独で治療を開始し、病勢進行時にパルボシクリブを追加する二次治療の治療戦略も有効な選択肢であることが示されました。

さらに、SONIA試験および本研究の結果は、近年の臨床試験の評価のあり方についても重要な示唆を与えます。新規薬剤の開発ではPFSが主要評価項目として用いられることが多く、その結果が治療指針に大きな影響を与えています。特にホルモン受容体陽性乳癌は治療期間が長く、治療薬の選択肢が多いため、OSを主要評価項目とすることは困難であり、効果についてはPFSのみで評価せざるを得ません。しかし、これらの試験の結果が示すように、患者中心に考えた場合、どの段階で新規薬剤の導入が適切かについてはPFSだけで決定することはできません。そのため臨床試験のデザインおよびその結果の解釈は、経済毒性も含めたQOL調査も合わせて行うべきであり、治療薬のシークエンスを考慮することが重要です。

【論文情報】

タイトル:Real-world data for a CDK4/6 inhibitor, Palbociclib, as 1st- or 2nd-line therapy in HR+/HER2− metastatic breast cancer: A multicenter prospective cohort study

著  者: Takashi Ishikawa

(*:責任著者) 

掲載誌名:Breast Cancer Research

DOI :10.1186/s13058-026-02313-9

【主な競争的研究資金】

・  Pfizer Inc. (grant number: WI235404)

・  Comprehensive Support Project for Oncological Research in Breast Cancer (grant number: CSPOR-BC: BC09)

【補足資料:図解・表等 添付】

1) 日本乳癌学会. 科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン1 薬物療法(2018 年版). 金原出版 2018.

2) Finn RS, et al. Palbociclib and Letrozole in Advanced Breast Cancer. N Engl J Med;

375:1925-1936, 2016

3) Sonke GS,et al. Early versus deferred use of CDK4/6 inhibitors in advanced breast cancer. Nature. 2024;636:474-80.

〇研究内容に関するお問い合わせ先

 東京医科大学 乳腺科学分野

 主任教授 石川 孝

 TEL:03-3342-6111

 E-mail:tishik55@gmail.com

 分野HP:https://tokyo-med-breast.jp/

〇取材に関するお問い合わせ先

学校法人東京医科大学 企画部 広報・社会連携推進室

TEL:03-3351-6141(代表)

E-mail:d-koho@tokyo-med.ac.jp

大学HP:https://www.tokyo-med.ac.jp/

横浜市立大学 総務課広報担当

TEL:045-787-2414

E-mail:koho@yokohama-cu.ac.jp

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▼本件に関する問い合わせ先
企画部 広報・社会連携推進室
住所:〒160-8402 東京都新宿区新宿6-1-1
TEL:03-3351-6141(代)
メール:d-koho@tokyo-med.ac.jp

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/