2022年6月から23年3月にかけて新潟日報朝刊の上越面で連載した「ルポ人口減少」では、過疎化がもたらすさまざまな影響を取材した。その中で、地域の課題に挑戦する若者や集落を守ろうと奮闘する人たちと出会った。紹介した人々を再び訪ね、未来へ地域をつなごうと、できることを一歩一歩積み重ねている「その後」を紹介し、このシリーズを終える。(文・川島薫=上越支社、写真・永井隆司=写真映像部、大渕一洋=上越支社)=4回続きの1=

集落を照らす夕日の中で春のひとときを楽しむ牛田光則さん一家=上越市大島区田麦

 新潟県上越市大島区田麦集落は、ふきのとうが芽吹く時期が麓よりも遅い。初めて訪れてから1年。集落は再び春耕の準備を始めていた。稲作と農家民宿経営で暮らす牛田光則さん(39)、詩歩さん(35)一家は今春、田麦から隣の竹平集落に引っ越した。

 県外から移住し、田麦に農家民宿「うしだ屋」を開いてから約6年。2022年8月には第2子の景子ちゃんが誕生し、家族は4人になった。育児が忙しくなり、自宅で経営していた「うしだ屋」は宿泊を休んでいたがゴールデンウイークに再開できる見通しだ。ただ、稲作や育児との両立を考え、うしだ屋を一棟貸しするスタイルに変更することにした。

 「今後は食事を出すなどフルサービスではなく、お客さんに自由に過ごしてもらう」と光則さん。羽釜でご飯を炊いたり、自家製みそでみそ汁を作ったりする体験を提供する予定だ。

 受け付けや調理補助など住み込みでうしだ屋を管理する従業員の募集も始めた。宿泊業務以外に集落の道普請など地域活動にも参加してもらいたい考え。「長く続けてほしいので、いい人の応募があるまでのんびり待ちます」

 光則さんは22年8月、田麦集落の田邊和夫さん(42)、隣の藤尾集落の布施孝司さん(41)とコメの販売会社「旭商店」を立ち上げた。自分たちのコメを市のふるさと納税返礼品に登録し、販路拡大を目指す。

 集落の空き家活用にも力を入れたいと考えている。転居先の立派な古民家は、もともと高齢の女性が1人暮らししていたが、県外の子どもの元へ身を寄せたため、空き家になっていた。

 「実は昨年、移住したいので、いい空き家はないか、と問い合わせがあったんです」と牛田さん。その人のために物件を押さえていたが移住話は白紙に。「もったいないから、うちで使うことにしたんです」

 「今後も空き家は増えると思うが、移住したい人や遊びに来る人もいる。そうした人が利用できるよう、できる範囲で維持管理していけたら」。前向きな牛田さんの表情に、明るい農村の姿が見えた気がした。

<2>を読む