
新潟県湯沢町の三国(みくに)峠。標高1200メートルを超える峠を縫うように、山道の国道17号が群馬県、太平洋側へと続く。三国街道新潟と関東を最短距離で結ぶ、五街道に次ぐ要路。江戸時代の参勤交代や佐渡金山からの金の輸送、米の流通に大きな役割を果たした。として、古くから越後の暮らしを支えてきた。この時期、大雪や吹雪といった冬の厳しさにさらされる「命の道」を守るプロがいる。「世界一の除雪の難所」と恐れられる一帯を仕事場に持つ「除雪人(じょせつびと)」を訪ねた。(報道部・笠原萌志、写真は一部を除き写真映像部・菊池雪那)

新潟県内で国道17号の湯沢町三国〜南魚沼市美佐島(みさしま)までの47・5キロを除雪するのが、国土交通省湯沢維持・雪害対策出張所(湯沢町)だ。出張所長の徤名政博(けんめい・まさひろ)さん(53)は指摘する。「天候や気温による路面の変化が激しい。降雪も多い。世界一の除雪の難所だ」
◆「世界一の除雪の難所」その理由は?気象予測とにらめっこの日々
理由の一つは地形だ。三国峠はふもととの標高差が千メートル近くあり、同じ地域内でも天候が異なる。大雪もあれば吹雪もあり、路面の凍結もある。
もう一つは道路条件。県境側の山道で急坂が続き、U字カーブが7カ所ある。反対側の長岡市方面に進むと住宅が広がり、交通量も多い。徤名さんは「オペレーターは地域の特徴を熟知した上で、巧みな除雪技術が求められる」と説明する。

群馬県側から見た三国峠
徤名さんは過去に同じく豪雪地帯の小出維持出張所で除雪をこなしてきた「除雪人」。降雪量だけではなく、気候や道路条件などが除雪の難易度を高める要因になり得ると体感してきた。
今冬は降雪が少ない。湯沢出張所管内の積雪量は1月末時点で約50センチ〜1メートルで、例年の半分程度にとどまる。ただ、気は抜けない。山間部は一晩で50センチ程度積もることもあるため、気象予測とのにらめっこは日課となっている。
◆「同じ雪の降り方はない」、除雪作業は「頭脳労働で奥深い」
出張所から除雪を委託されている湯沢町の総合建設業「文明屋」は、最も山深い湯沢町三国から湯沢町三俣(みつまた)までの13・6キロを担当する。その区間にある「二居(ふたい)除雪ステーション」を拠点に、1966年から除雪業務を受託してきた。

「グォー。グォー」。除雪車のエンジン音がうなりを上げた。運転時はフロントガラスから道路状況を見ながら手もとのボタンやレバーを操作する。文明屋のオペレーターは10月中旬から6月初旬まで、二居で除雪に当たる。48人が日勤と当直を順番にこなし、24時間態勢を敷く。

ロータリー除雪車を操縦する文明屋土木部工事課の久川英紀さん
「同じ雪の降り方はない。毎回毎回、最も適した除雪方法を考える。頭脳労働で、奥深い」。文明屋土木部工事課の久川英紀(くがわ・ひでのり)さん(46)は除雪作業のやりがいを語る。
高校を卒業後、19歳から除雪車両に乗り込む。除雪作業車を操作するオペレーター歴は25年を越える。赤色のウインドブレーカーに着込み、黙々と仕事をこなす「除雪人」だ。

「除雪人」が出動時に身につけるウインドブレーカー=湯沢町二居除雪ステーション
2013年に新潟・群馬県境にある三国トンネル(全長1200メートル)の群馬県側で雪崩が発生した。山から大量の雪が国道17号に流れ込み、4メートルほど積もった。国から要請され、土地勘がない群馬県で作業に当たった。

凍結抑制剤散布車の車内モニター。凍結抑制剤の残量を確認できる
ホワイトアウトで「何も見えない」。猛吹雪が視界を奪った。それでも早朝から夜中まで3日間にわたり、ハンドルを握り続けた。「これまでの経験と技能の全てを使い、除雪をした。焦りや不安はなかったが、本当に疲れた」。印象に残っている仕事の一つだ。
◆若き除雪人も熱く「早く一人前になりたい」
文明屋土木部工務課の曽根康博(そね・やすひろ)さん(49)は32歳でコンクリート製造業から転職し、オペレーターに就いた。父親が文明屋の元社員で、「除雪に興味があった」という。

道路状況をモニターの確認をする文明屋土木部工務課の曽根康博さん
「クリスマスやお正月も除雪。年末年始の休みはない」。曽根さんは3人の父。冬季は、家族との時間がなかなかとれない。「インフラ仕事なので仕方がない。一家だんらんはあきらめてもらった」と話すが、大雪と向き合う原動力は家族の存在だ。
「国道を通行止めにしてはいけない。人々の暮らしが懸かっている」。曽根さんは命の道を守る「除雪人」の責任を口にする。

事務作業をする文明屋のオペレーターら
曽根さんにあこがれる若手社員がいる。岡村ドク(おかむら・どく)さん(19)だ。地元の塩沢商工高校(南魚沼市)を卒業し、2023年4月に夢だったオペレーターになった。
「周囲から頼られる人になる」と力強い。今は修業中で、除雪車両の助手席で先輩から指導を受ける。「早く一人前になりたい」。若き「除雪人」の瞳は雪を溶かすほど燃えていた。