
米どころ新潟平野に位置する新潟県燕市佐渡山。田園地帯にあるビニールハウスへ一歩入ると、「え⁈なんで熱帯のジャングル⁈」と理解が追いつかない光景が広がっています。
3メートル以上あるハウスの天井を突き破らんばかりの熱帯植物が、みっしりと生い茂っています。長さ2メートルほどもある葉は、雪国・新潟では見たことがないサイズ! そしてバナナが実っている!

このジャングルをつくり上げたのは、ハスの苗などを生産販売する「フラワー華連」(燕市)代表の加藤正人さん(62)。「新潟で育つバナナがあるはず」と、4年前からさまざまな種類のバナナ栽培に取り組んでいます。
加藤さんがバナナ栽培を始めたのは、沖縄県・宮古島の知人に勧められたのがきっかけです。「最初は雪国でバナナなんて、と思った」といいます。しかしその知人から「バナナは丈夫だし、育つかどうかはやってみないとわからない」と言われ、「確かに何もしないで、できないというのは違うな」と考え直しました。2020年春、まずは4品種の苗12本を取り寄せてビニールハウスで栽培を始めました。

1センチほどの苗は秋には1、2メートルに育ちました。問題は、時に氷点下になる雪国・新潟の冬を越せるか。暖房を使うなどお金をかければ越冬は簡単ですが、加藤さんは「この地に根付くには、経費や手間がかかるようではだめだ」と考えました。
暖房を使わず、苗の茎に断熱材を巻いたり、もみがらで根元を保温したりしましたが、翌2021年春は全滅。ところがその6月、枯れた苗を捨てた場所をふと見ると芽が出ていました。「越冬したんだ!」と気付き、新潟でも育つかもしれないと希望がわきました。

加藤さんは、バナナについてさらに勉強しました。すると、高山に育つなど耐寒性のある品種があることがわかりました。えりすぐりの30品種を新たに取り寄せハウス栽培したところ、ついに暖房を使わずに越冬に成功!
「露地でもいけるのでは」と考えた加藤さんは2022年6月、越冬した一部の苗を水田に囲まれた自社の畑に植えてみました。土壌は周辺の田んぼと同じ、肥料も特に与えませんでしたが7月、数品種のバナナが結実。「植えっぱなしで手がかからないと感心した」と振り返ります。

当時、新潟日報でも取り組みが紹介され、興味を持って見学に来る人が増えました。加藤さんが印象深かったのは、田んぼの脇に植えたバナナを見た園芸農業の専門家から「あなたも相当変わってますね」と言われたことだそうです。「彼らは多くの知識を持っているから、私の挑戦は無謀に見えたのでしょう」と分析し、「でも、やってみないとわからない。常識を疑え!ですよ」と豪快に笑います。

無謀にも見える、雪国・新潟でのバナナ栽培について、加藤さんは「手間をかけずに栽培できれば、休耕田や耕作放棄地対策に有効だ」と力を込めます。バナナの病気「パナマ病」の菌も、新潟では冬季に死滅するため無縁。虫害もなく無農薬栽培が可能なこともメリットです。「米とバナナ、枝豆とバナナなどの合わせ技で農家の収入アップにつながる」と展望しました。

さて、それから2年たった今年の夏...