
新潟県十日町市と津南町を舞台に、「大地の芸術祭」が11月10日まで開催されています。昔話に出てきそうな山あいの集落や田園の風景に、国内外の作家による現代アートが非日常感を与えます。山里の食や文化の豊かさを際立たせると同時に、廃校や空き家の作品では、失われたにぎわいやざわめきの気配が、訪れる人の心を強く揺さぶります。

2000年から3年に1回開かれてきた芸術祭は今年9回目。前回は57万4000人超が国内外から訪れました。
今回は作品数は311点、うち新作は85点に上ります。2市町合計760平方キロメートルという広大な会場や膨大な作品数に、「何をどうやって見ればいいの?」と悩みますが、とりあえず行ってみましょう。

山道の運転や地図が苦手な人は、公式バスツアーもお勧め。ということで、十日町市のまつだい駅を正午に出発する、松代地区を巡る半日コースに参加しました。9施設と名所「星峠の棚田」を見ることができます。
まずは出発地のまつだい駅へ。駅近くの拠点施設まつだい「農舞台」に車を止めます。「農舞台」と、周辺の徒歩圏内にもたくさんの作品があります。早めに現地へ到着し、ツアー出発までゆっくりと作品鑑賞します。


「農舞台」では、ロシアの作家イリヤ&エミリア・カバコフの作品群を堪能できます。天使や空を飛ぶ夢をモチーフにした、ファンタジックな造形やイラストが並びます。
カバコフの新作もあります。「―天井に天国を―」と題した空間アートは、寝室らしき部屋の天井近くに、壁に沿って棚が巡らされています。その棚の上は、さまざまな動物が暮らすユートピア! はしごがかけられ、部屋の主も好きなときに〝訪問〟することができます。


旧ソ連生まれのユダヤ系アーティストだったイリヤ・カバコフは2023年、89歳で亡くなりました。抑圧された社会で制作活動を続け、大地の芸術祭には初回から参加。多くの作品を残しました。「農舞台」の作品群はかわいらしくファンタジックですが、ほのかに「死」を感じさせます。カバコフは、空を飛んで天使に会えたでしょうか。

さて、小型バスに乗り込みツアー出発です。全席自由。この日は20人弱、1人で参加している人が約半数を占めました。ガイドはつきませんが、その分、個人旅行のような自由さがあります。

中国作家の展示、制作拠点となっている十日町市室野の中国ハウスを訪ねました。空き家を改装した室内は、天井や壁すべてがキャンバス。自由に走らせた筆跡や色彩が踊り、弾んだ気分になります。

隣接する民家は、玄関から巨大な白い泡?フォトスポットとして大人気となっている清津峡渓谷トンネルの作品(2018年)を手がけたマ・ヤンソンの新作です。ガイド本を読むと「泡」なのだそうですが、漫画の吹き出しのようにも見えて、家が「寄ってけてー」と言ってるみたいで愉快でした。

美しい棚田を一望できる星峠近くには、日大芸術学部有志が、長い時間と手間をかけて空き家の内部を彫刻刀で掘り込んだ「脱皮する家」と、やはり空き家を活用した新作「空知らぬ雪」があります。
「空知らぬ雪」は、2022年に現地の豪雪を経験した作家「椛田ちひろ+有理」が、除雪機を空に雪を帰す装置と着想し制作。1階は除雪機をイメージした機械が稼働し、...