①タイトルまで、あと一歩!
現在アルビレックスと名の付くスポーツチームの中で、最も「日本一」に近いのがアルビレックス新潟レディースと言っても、他のチームから怒られることはないだろう。
女子サッカーの国内最高峰リーグ「WEリーグ」に所属し、リーグカップ、皇后杯、リーグ戦の主要3大タイトルを争う。2023-24年シーズンはリーグカップ決勝でPK戦で敗れて準優勝。24ー25は皇后杯決勝でPK戦で敗れて準優勝と、紙一重で栄冠を逃してきた。過去をさかのぼっても日本一のタイトルはなく、今季こそ“悲願”への思いは強い。

昨季の皇后杯決勝で敗れ、準優勝となった新潟L=1月
②「世界一」メンバーが健在
2011年ドイツワールドカップで優勝したなでしこジャパンの活躍は日本中に感動と勇気を与えてくれた。新潟Lは、その時のメンバーだったFW川澄奈穂美とMF上尾野辺めぐみが主将、副主将として今もチームを引っ張る。
精神的支柱としても、プレー面でもその存在は大きい。試合の流れを読む経験に加え、若手選手に背中で示すサッカーへの情熱は、チームの大きな財産になっている。2人が幼なじみで、かつては新潟LとINAC神戸で敵同士だったというドラマも熱い。
上尾野辺は新潟L一筋で20季目のシーズンを迎え、リーグ通算の最多出場記録も更新中。このほかにも、地元出身でチーム創設当初を知る元日本代表MF川村優理も長いけがから復帰。ベテランたちの経験は、橋川和晃監督の自主性を重んじるサッカーの模範にもなっている。

川澄奈穂美(左)と上尾野辺めぐみ=2023年10月
③橋川和晃監督3季目
WEリーグが始まり、最初の2シーズンはリーグ戦8位、10位と苦戦したが、そこで橋川監督が就任。3強と呼ばれる三菱重工浦和、INAC神戸、日テレ東京Vにも負けじと食い下がり、2季連続で4位の結果を残した。今季こそ3強の牙城を崩し、タイトルを奪う。
監督が掲げる戦い方は「堅守柔攻」。伝統の堅守を土台にしながら、状況に応じて速攻、遅攻を選手たちが判断して使い分ける、柔軟性のある攻撃が特長だ。押し込まれる展開でも、カウンター一本をものにしたり、得意のセットプレーを決めきったり、勝負勘も身に付けてきた。
「勝負の神様は細部に宿る」と、地道に積み重ねてきて3季目。核となる選手が残り、若手も成長してきた今、勝負を掛けるシーズンとなる。

今季の新体制会見に臨む橋川和晃監督(右から2人目)=6月
④滝川結女がエースに成長
新発田市役所での勤務経験と明るいキャラクターから“新発田のアイドル”とも呼ばれるMF滝川結女。サイドハーフが主戦場だったが、橋川体制となり中央トップ下での起用が増えた。
153センチと小柄だが、得意のドリブルやターンで相手守備をかわし、昨季は得点力にも磨きが掛かった。思い切りのいいミドルシュートに、「こぼれ球クイーン」(命名:川澄)とも呼ばれる嗅覚で得点を積み重ね、得点ランク3位タイの8点をマーク。
日本代表にも招集され、勢いに乗る“アイドル”から目が離せない。

⑤若手が切磋琢磨
若手の成長が頼もしい。例えば22歳のFW山本結菜はスーパーサブ的な起用が多かったが、昨季はスタメン出場を大きく増やした。左サイドハーフを主戦場に、推進力のあるドリブル突破のほか、クロスで好機を演出したり、ゴール前に飛び込むこともできる。
18歳のDF横山笑愛も昨季ブレイクした1人だ。180センチの高身長に左利きと、ポテンシャルの塊のようなセンターバック。下部組織から昇格すると後半戦はスタメンに定着し、3得点もマークした。年代別代表にも選ばれ、さらなる飛躍が期待される。
ほかにも新卒1、2年目の個性豊かな若手が多く、虎視眈々とメンバーの座を狙っている。

クロスを上げるFW山本結菜=11日
⑥守護神と得点源が退団したけど…
今季唯一とも言っていい不安材料が、日本代表GK平尾知佳が海外挑戦で抜けた穴だ。新潟Lの堅守の中心であり、痛いことには間違いない。ただ、経験豊富なGK久野吹雪をノジマ相模原から補強。そこに平尾の控えに甘んじてきた高橋智子、将来性豊かな特別指定選手の坂田湖琳(開志学園JSC)と、「3人横一線」(橋川監督)の競争が、良い方向に作用するかもしれない。開幕戦では久野がポジションを得たが、今後のGK争いにも注目だ。
WEリーグ発足以降、新潟Lの得点源だったFW道上彩花やFW石淵萌実も移籍した。しかし、すでに昨季は2人を欠いた中でもチームが構築されており、大きな問題とはならないだろう。
滝川や山本の成長とともに大きかったのが、FW新堀華波の加入だ。スピードがあり、組み立てでも、ゴール前でも脅威になれる万能型FW。得点こそ1得点に終わったが、昨季後半の貢献度の高さは明らか。今季は数字でも結果を出してくれるはずだ。また、FW江﨑杏那も新たに加入。けがで出遅れてはいるが、復帰すれば前線の選択肢はさらに広がる。長身のサイドアタッカーMF城和怜奈もチームになじめば面白い存在になる。

新たな得点源として期待されるFW新堀華波=3月
⑦「3強の牙城」勢力図を変えろ!
WEリーグは今季が5季目。だが、過去4季の上位3チームはいずれも日テレ東京V、INAC神戸、三菱重工浦和が占めてきた。その3強を崩すのはどのチームか。間違いなく2季連続4位の新潟Lはその筆頭に挙げられるし、リーグカップ2連覇中の広島も2番手グループだろう。
橋川監督は最初の就任会見で「3強の牙城を崩さなければ、リーグ自体の発展はない」と言い切った。固定化された勢力図を変え、3強に割って入れる存在になれるか。その先には必ず、クラブ史上初、悲願のタイトルがあるはずだ。
開幕戦を幸先良く白星で飾り、次は8月17日のホーム開幕戦。いきなり三菱重工浦和を迎える大一番となる。勝ちきって波に乗るためには、より多くの人の応援が必要だ。

WEリーグのキックオフイベント=4日、都内
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