佐藤哲三

 終戦から80年。戦争という激流の中を生きた県人画家たちがいる。戦意高揚のため、あるいは戦地での過酷な経験から生まれた絵など、画家が時代と向き合って描いた作品を通じ、そこに刻まれた思いを探る。

 明るい光が差し込む川辺に、満開の桜。背景の二王子岳には残雪が白く輝いている。戦前には6000本にも及ぶ桜並木が「長堤十里世界一」とうたわれた加治川堤(新発田市、聖籠町)の春の光景だ。

 蒲原平野に生きる人々とその風景を描き続けた洋画家、佐藤哲三(1910〜54年)がこの絵を描いたのは44(昭和19)年。太平洋戦争下の物資欠乏のため、加治川の桜も木材として供出を強いられた。これを惜しんだ...

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