
拉致被害者5人が一時帰国を果たした2002年10月。日朝間で2週間程度と示し合わせていた日本滞在の期間が、残り数日に迫った。5人を北朝鮮に戻すのか、それとも永住帰国に踏み切るのか。政府内は揺れていた。
首相官邸の安倍晋三官房副長官室で、5人の今後について話し合いがあった。複数の関係者によると、外務省の田中均アジア大洋州局長が「北朝鮮に戻る約束になっている」と述べた。
北朝鮮要人と水面下で交渉し、首脳会談に導いた田中氏は、北朝鮮に残る5人の家族の帰国交渉が困難になると懸念した。「北朝鮮に戻さなければ、私がつくったルートは壊れてしまう」と口にしたという。
これに対し、谷内正太郎官房副長官補は「拉...
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