客足は戻らない中、旅館の切り盛りに苦慮する河村信之さん=13日、弥彦村
客足は戻らない中、旅館の切り盛りに苦慮する河村信之さん=13日、弥彦村

 衆院選が19日、公示された。人口減少が農業や観光、医療福祉にも影を落とす地域に、新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけている。「いま地域がどうなっているのか、とにかく知ってほしい」-。投開票日に向け、地域住民らの思いを伝える。

 新潟県弥彦村の弥彦神社が七五三のお宮参りでにぎわう一方で、温泉街の人通りは少ない。観光施設「おもてなし広場」前の駐車場に止まる車の9割以上が県内ナンバーだ。新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言が明けても、客足は戻っていない。

 神社にほど近い老舗旅館「名代家」の38代目主人、河村信之さん(58)は、感染禍の根深さを痛感しつつ、改めて観光業の時代の浮き沈みを思い返した。

 家業を継ぐため実家に戻ったのは21歳の時。まだ日本全体が、好景気に沸いたバブルに酔っていた。

 温泉街には浴衣姿の宿泊客が行き交い、夜ごと芸者遊びのにぎやかな音色が響いた。「関越道、上越新幹線開通の効果も出始め、こんなに人が来るのかというほど。受け入れ体制の整備が間に合わず、過剰予約で他の旅館に客を回すところもあった」と振り返る。地元客の宴会を断ることもあったという。

 90年代以降の長期不況は、旅館業にも多大な影響をもたらした。客室稼働数の減少、1万5千円ほどだった客単価も3分の2以下に落ち込んだ。平成期に相次いだ震災、災害が発生するごとに客足は遠のいた。2004年の中越地震は、弥彦の観光が最も盛り上がる菊祭りを翌月に控えた10月。県外客がぱったりと途絶えた。

 それでも踏ん張った。支えてくれたのは県内客だ。河村さんは「元々、弥彦の宿泊客は県内と県外が半々か、6対4くらい。ある意味強みが生かされた」と分析する。

 県内有数の観光スポットとして弥彦神社が再評価されるようになった近年、観光客も増えるようになった。冷や水を浴びせかけたのが新型ウイルスだった。旅館は開店休業状態が続き、「経営と従業員の雇用確保に頭を悩ませる日々だった」と語る。

 1泊2食付き、1部屋に4、5人宿泊という従来のプランを見直し、素泊まりや朝食のみのビジネスプランを新設。1部屋に1人の宿泊も増えた。「客数確保よりも客室稼働を上げることを選んだ。効率が下がることを懸念した板前や仲居と話し合いを重ねた」。しかし書き入れ時の年末の宴会予約が全く入らず、厳しい状況は続く。

 行動制限は緩和されたが、現場の実感はない。「予約は増えてない。特に関西、中京圏は全くない」と語る。各種助成金や補助金でしのいでいるのが現状だ。

 「観光業への支援はばらまき批判もある。ただ、雇用を守り、出入り業者を支えるためにも必要だ」と強調する。ただ昨年の観光支援事業「Go To トラベル」は始まって数カ月で、感染拡大により事業停止に。期待が大きかっただけに現場は混乱した。

 政治に期待するのは安定性と政策実現の確実性だ。「経済、産業政策に明るく、観光の明日を描ける人を選びたい」。苦境を打破するために1票を握りしめている。

(三条総局・山崎琢郎)

◎補助金額、是正が必要

河村信之さんの話 持続化給付金など各種助成金や補助金、減税などの対象期間の延長、広域観光圏と小規模観光地で格差が顕在化している補助金額の是正が必要だ。ウイルス禍の影響から抜け出すには半年から数年かかる。中長期的な視野で、観光業の再興を支える施策を求めたい。