原発問題は31日投開票の衆院選でも争点に挙がる。各党の論戦では、地球温暖化の側面から原子力発電の活用の是非について語られることが多い。ただ、東京電力柏崎刈羽原発がある新潟県では、原子力防災も身近で切実な課題だ。特に地震など自然災害と原発事故が重なった場合の避難対策は弱点も指摘される。2007年7月の中越沖地震を経験した住民は、「不完全」に感じる避難対策に対し、国や自治体での議論が深まらないことに懸念を募らせる。

 14年前の夏、柏崎市笠島の海辺で子どもと釣り糸を垂れていた長岡市の公務員男性(61)は、大きな揺れに襲われた。中越沖地震だった。

 崖が崩れ、乗ってきた車は動かせなくなった。ヒッチハイクで何とかたどり着いたJR柏崎駅でタクシーが拾えたが、自宅までの道のりはさらに遠かった。

 道路は波打ち、液状化していた。窓の外からはガス臭がした。無線を頼りに運転手が通れる道を探してくれたが、普段は1時間ほどの自宅に着くまでに6時間かかった。防災無線のスピーカーからは「原発は異常ない」と聞こえた。しかしそのとき、原発では変圧器火災で煙が上がっていた。

 それまで原発への関心は高くなかったが「もし放射能漏れがあったらと考えると、避難の問題はしっかり考えなければと思った」。

 男性は県の避難計画が「被ばくを前提にしている」と感じる。自宅は、原発から半径5~30キロ圏の避難準備区域(UPZ)=図参照=に当たる。事故があった場合、原発至近5キロ圏(PAZ)の住民を優先避難させるため、男性らUPZの住民はすぐには逃げず、屋内退避するのが原則だ。

 計画上、UPZ住民が避難を始めるのは、原発から放射性物質が放出された後。「木造住宅で屋内退避しても被ばくは完全には防げない。被ばくしながら動けないなんておかしい」。男性は避難計画の根本が間違っていると憤る。

 UPZの屋内退避の原則を巡っては、県の避難計画を検証している県「避難委員会」も、「地震と原発事故が重なった場合は困難」と指摘している。5月末にまとめた論点整理では、余震が頻発した04年の中越地震を引き合いに、揺れで傷んだ家にとどまり続ける危険性に言及している。

 ただ、この原則は国の原子力災害対策指針に基づく。国レベルでの議論が必要で、見直しは容易ではない。避難委も対応策には触れず、県の現行計画は矛盾を抱えたまま存在している。

 衆院選では、原発がある柏崎市と刈羽村の選挙区は新潟2区だが、UPZには4、5、6区も含まれる。男性は「決して2区だけの問題ではない」と議論を注視する。

 原発から5キロ以上離れた柏崎市に住む女性(70)も、「穴」の多い避難計画だと憂う。「避難計画は毎日復唱してでも頭に入れておくべきもの。その土台さえできていないことが問題」と強調する。

 原発至近の住民を優先避難させる点についても「うまくいかないだろう」と感じる。中越沖地震の際、近くの寺が倒壊。水道やガス管工事も時間を要した。「屋内にとどまれと言われても無理。皆、われ先にと避難すると思う」。14年前の実体験がそう思わせる。

 衆院選では、原子力防災の論戦を期待する。「安全に避難できるかどうかは、原発への賛否がどうという話じゃない。知恵を出し合える問題」と女性。「この課題に目が向く候補者がいるのかどうか」と、静かに耳を傾けている。