
北朝鮮による拉致被害者で新潟産業大特任教授の蓮池薫さん(67)=柏崎市=が、「人生の集大成」と位置づけた新著「日本人拉致」(岩波新書)を20日に出版する。「拉致は重層的な人権蹂躙(じゅうりん)だ」。拉致問題1970~80年代、北朝鮮が日本人を連れ去る国際犯罪を重ねた。工作員の教育などが目的とされる。2002年の日朝首脳会談で金正日総書記が拉致を認めて謝罪。被害者5人が帰国し、8人は「死亡」とされた。日本政府認定の被害者は計17人で、北朝鮮は4人を「未入国」と主張している。日本側は説明に不審な点が多いとして受け入れず、交渉は停滞している。をこれまでにない激しい口調で断罪し、「本人だけでなく、家族にも悲惨な思いをさせる拉致問題を、多角的に見てほしい」と訴えている。
新著は、蓮池さんが2023〜25年にかけて執筆した月刊誌「世界」(岩波書店)の連載記事に加筆・修正を加えた。「なぜ私は拉致されなければならなかったのか」-。北朝鮮で過ごした24年と帰国後の23年を踏まえ、拉致の目的や北朝鮮での思想教育など、拉致問題の本質に迫った。
蓮池さんは北朝鮮が拉致問題を「解決済み」としていることや、長い年月で国内での風化が進んでいる実情に危機感を持っていた。
出版の経緯について「風化させないために『拉致問題は解決済みではない』という明確な根拠を知ってもらいたいと思った」と強調。「当事者として長年考えていたことを整理し、もう一度国民世論に呼びかけたい」と語る。
5章編成で、1章は北朝鮮が主張する「8人死亡」が虚偽であることなどを明らかにし、2章では、拉致の目的を蓮池さんの体験や資料に基づいて記した。3章では、拉致は失敗で北朝鮮にデメリットをもたらしたと指摘。4、5章では、蓮池さんが北朝鮮から受けたマインドコントロールや任務などについて、実体験を詳細につづっている。
特徴的なのは、論理的に拉致問題について整理した上で、拉致の首謀者として故金正日(キムジョンイル)総書記の名を挙げた点だ。「拉致を(金正日氏が)指示したからこそ、私は抹殺されずに生き残った」。最高指導者に責任があることを、自身の生存が証明していると訴える。
「帰国して20年が過ぎたが、このままでは(拉致問題は)静まってしまう。根本を暴いて(本を)出すことが、問題を風化させず、解決する一つの原動力になるのではないか」と語る。
新著の最後の「おわりに」では、北朝鮮が「死亡した」と主張する、新潟市で拉致された横田めぐみさん1977年11月15日、新潟市立寄居中学1年の時の下校中に失踪。2002年9月の日朝首脳会談で北朝鮮は拉致を認めた。北朝鮮はめぐみさんは「死亡」したとして04年に「遺骨」を出したが、DNA鑑定で別人のものと判明。北朝鮮の説明などに不自然な点が多く、日本政府は生存を前提に再調査を求めているが、北朝鮮は「拉致問題は解決済み」としている。=失踪当時(13)=ら8人について、死亡は虚偽であると重ねてつづった。何重にも悲惨な思いをさせる拉致を「重層的な人権問題」と表現し、北朝鮮による人権侵害が今も続いていると強調している。
蓮池さんは「拉致問題解決へ応援してくれる方はたくさんいると思うが、年月で色あせる話ではないということも含め、真相を知ってほしい」と力を込めた。
著書「日本人拉致」は1034円。...