
全国各地でサッカー専用スタジアムの建設の動きが進んでいる。専用スタジアムはトラックがない分、ピッチと観客席の距離が近く、より臨場感のある観戦が楽しめる。スタジアム新設には土地の確保や多額の費用を要するが、どのように実現にこぎ着けたのだろうか。2024年2月に誕生した広島市の「エディオンピースウイング広島(Eピース)」の事例を参考に、可能性を探ってみた。(運動部・片野透)
◆ピッチまで8メートル
4月29日、J1第13節広島-新潟が開催された広島市のエディオンピースウイング広島(Eピース)。新潟が1-0で勝利した一戦には、新潟のサポーターも含めて2万5246人が詰めかけ、声援を送った。

Eピースは2024年2月に開業した。サンフレッチェ広島が広島市からの委託を受けて施設を管理・運営している。広島市中心部に位置し、原爆ドームや広島城などは徒歩圏内。最新の音響設備や照明を備える。

スタンドとピッチの距離は最前列の場合約8メートルほど。陸上競技のトラックをはさみピッチまで約34メートル離れているデンカビッグスワン(新潟市中央区)と比べると非常に近い。

訪れた新潟サポーターもピッチの近さに感激した様子だった。会社員林岳さん(31)=長岡市出身=は「選手との距離が近く、キックの音や選手の声が聞こえる。より一層一緒に戦っている気分になる」と興奮気味。「ビッグスワンも愛着はあるが、広島サポーターが本当にうらやましい。ぜひまた来たいと思った」と話す。

東京都の会社員澤口典由さん(36)も「サッカー専用ならではのピッチとの距離感で、迫力があった」。スタジアム外についても「広大な芝生エリアがあってピクニック感覚で楽しめるし、飲食店も多くあったから試合までの時間を楽しめる環境だった」と話した。
◆クラブの売上高はほぼ倍増
スタジアム内の広島サッカーミュージアムにはシュートやドリブルなどを体験できるコーナーもあり、親子連れが楽しんでいた。

市民の新スタジアムへの関心度は高く、ホームゲームなどのチケットは軒並み完売している。クラブの24年度決算は売上高が80億3400万円で、23年度決算の41億9800万円からほぼ倍増した。「想定以上」(クラブ広報)の経済効果を見せている。

サンフレッチェ広島・スタジアムビジネス部の森重圭史部長は「売り上げが伸びれば、人件費などの投資にも回せる。いいスパイラルになっている」と笑顔を見せた。※「トップチーム人件費」に関する記事はこちら

◆きっかけは署名活動
他クラブがうらやむような現状だが、Eピースの完成までには紆余曲折があった。...