古民家を改装し、3月にオープンした「さどまり泉の家」=佐渡市泉甲
古民家を改装し、3月にオープンした「さどまり泉の家」=佐渡市泉甲

 「佐渡島(さど)の金山「相川鶴子金銀山」と「西三川砂金山」の二つの鉱山遺跡で構成。17世紀には世界最大級の金の産出量を誇った。金の採取から精錬までを手工業で行っていた時代の遺構が残っているのは、世界的に例が少ないとされる。」が世界文化遺産1975年に発効した世界遺産条約に基づき、歴史的建造物や遺跡を対象にユネスコが人類共通の財産として登録する。国内では姫路城などが登録されている。世界遺産にはほかに、貴重な生態系などの自然遺産と、文化と自然の要素を併せ持つ複合遺産がある。登録の可否は世界遺産委員会が決める。に登録された2024年度、佐渡市内では宿泊施設の開業が相次いだ。県佐渡地域振興局によると、旅館業の許可申請は前年の6倍近い29件に上った。観光需要の高まりへの期待感に加え、島内で増える空き家の有効活用を狙った動きが目立つ。開業した施設は人手や運用コストを抑えた素泊まり宿が大半を占め、宿同士の連携も広がりを見せている。(佐渡総局・渡辺伸也)

 新型コロナウイルス禍で旅行需要が低迷し、市内では22年に「両津やまきホテル」が事業停止するなど、近年は大規模な宿の営業休止が続いた。19〜23年度の旅館業許可の申請は年間5〜10件で推移していた。

 しかし、24年度は一転して個人や事業者の申請が急増。市観光振興課は「宿泊施設の受け皿が縮小する中、世界遺産登録を見越し、観光需要を感じ取った民間の努力で開設が進んだのでは」とみる。

 住宅を宿に活用した「民泊」は、18年の住宅宿泊事業法(民泊新法)施行以降、少なくとも28件が登録された。22〜24年度は毎年5〜7件の申請があり、着実に数を増やしている。

 島の宿不足解消に貢献しようと22年から古民家再生事業に取り組む佐渡汽船は、今年3月に2棟目の宿「さどまり泉の家」を泉甲にオープン。働き手が不足する中、スタッフが常駐しない1棟貸しで、素泊まりを主体に運営している。

古民家を改装し、3月にオープンした「さどまり泉の家」=佐渡市泉甲

 営業部の担当者(25)は「滞在ニーズが多様化しており、個人旅行者やインバウンド(訪日客)で平日も埋まりやすい」と手応えを語る。さらなる宿の開業も視野に入れるが、「佐渡は冬の入り込みが少なく、夏中心の集客でも運営が続けられるよう初期投資を抑えた形を目指している」と事情を語る。

 泉甲の会社員(54)は近所の高齢者が終活で手放した民家を改装し、「ゲストハウスKIMAMA(キママ)」を7月に開業する予定。需要を見極め、ペットの宿泊も可能にした素泊まり宿だ。「スキルがなく、飲食の提供は難しい。周辺に飲食店やスーパーが多い立地も進出には大きかった」と話す。

 佐渡観光交流機構の佐藤達也事務局長(45)は「親族などが保有する空き家がもったいないと、宿に改装して2次活用に踏み切る人が多い」と傾向を語る。スタッフを介さないセルフチェックインの仕組みや、近隣での飲食を促す「泊食分離」のスタイルも広まりつつあり、個人でも宿を始めやすい環境が整ってきているという。

 交流機構は昨年度、ゲストハウス経営者を集めた交流会を2度開催。つながりができたことで、満室時には他の宿を紹介する動きも生まれている。

 佐藤さんは「宿同士で競合するというよりは、連携、助け合いができている。『夕食難民』の課題に対しても、...

残り74文字(全文:1191文字)