【2021/03/30】

 「スーツ姿の人を本当に見なくなりましたよ」「県外のお客さんが戻ってくるのは、しばらく時間がかかりそうですね」。新潟を代表する繁華街、新潟市中央区古町地区にある居酒屋「月ひかり」で、店主の中坪雅志さん(47)が、カウンター越しに客と会話を交わす。新型コロナウイルス禍にのみ込まれてからは、そんな話題ばかりだ。

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 中坪さんは古町近くで生まれ育ち、板前に憧れ、15歳で飲食業界に飛び込んだ。2012年秋に「月ひかり」を開業。ここ数年、不景気などで客の節約志向は高まっていたが、人出はあった。ウイルス禍の今は「夜の街へ飲みに出るのが悪いことのようになり、行かないのが当たり前になった」と感じる。

 県内で感染が広がり始めた昨春以降を振り返ると、閉店時間の午前2時まで営業した日はほぼない。「昼間、人気のラーメン屋さんには行列ができている。なぜ夜の街だけこうなるのか。ウイルスは夜行性なの?」と愚痴がこぼれる。

 ただ、客を責める訳にもいかない。「会社から飲みに行くなと言われているんですよ」。来店が途絶えた常連客からは申し訳なさそうに、スマートフォンにメッセージが届く。「落ち着いたら…」と続くが、収束は見えないままだ。

 個人事業主への持続化給付金100万円も感染対策や店の家賃の支払いなどで「あっという間に消えた」。同業者と情報交換をすれば「借金をしても返すすべがないとか、もう危ないとかいう話がどんどんと入ってくる」。苦しいのは飲食店だけではない。酒販や運転代行、おしぼりなど、夜の街に関わる業種は幅広い。飲食店から「廃業の連鎖」が起きることを恐れる。

 古町の居酒屋など約30店と取引がある「清水酒店」(新潟市中央区)の清水勇太郎さん(39)は「お店からの注文が徐々に減り、配達に出ない日もある」と漏らす。配達が減れば、売り上げは落ちる。居酒屋などが振るわないままなら「明るい展望を見いだせない」。

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 支援は飲食店ばかり。そんな批判的な意見があることも中坪さんは承知している。だが、ここで自分たちが踏ん張らないと-。

 2月下旬、中坪さんは新潟市内82の小規模個人飲食店有志の切実な声をまとめ、同市に緊急支援を要望した。約1カ月後、飲食店などを対象とした県の事業継続支援金に、市は10万円を上乗せすることを決めた。

 「見捨てられていなかった」。そう受け止めた。中坪さんは「ぎりぎりの『今』を乗り越える上で、この10万円は何倍もの価値がある」と感謝する。

 数カ月の「延命」のめどは付いた。この間に「自分たちは感染対策をもっとアピールしていく」。何よりも「ワクチンなどで早く収束して、お客さんに安心した気持ちで戻ってきてほしい」と願う。「ウィズコロナ」の社会から夜の街が消えるかどうか。その瀬戸際にあると思っている。