【2021/04/02】

 昨年7月中旬の金曜夜、最初はわずかな異変だった。新宿・歌舞伎町のホストクラブ「愛本店」で店舗運営を担うゼネラルマネジャーの「はな。」さん(44)は「ちょっと暑いな」と感じた。歌舞伎町など夜の街が、新型コロナウイルス感染拡大の要因だと、やり玉に挙がっていた時期。ただ当時は対応する医療機関も少なく、土日は自宅で様子を見るしかなかった。

 見る見るうちに熱が上がり、これまでに経験したことのない苦しみに襲われた。「つらくて寝られない。体中がもげそうだった」。月曜日に検査を受け、翌日に陽性と診断された。周囲に感染者はおらず、「なぜ」と思った。

 症状は一気に悪化し、水曜日には入院した。治療の「最後のとりで」とされる人工心肺装置「ECMO(エクモ)」を取り付けられた。重症だった。

 幸い2日間で重篤な状態は脱したが、入院生活は10日間に及んだ。髪の毛が抜け、何をしていてもぼーっとしてしまう容体が続いた。自分の触れたものが看護師によってくまなく消毒されるのを見るのもつらかった。心底、思った。「この怖さはなってみないと分からない。これは絶対に人にうつしちゃいけない」

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 自身の感染でクラブにも変化が生まれた。目に見えないウイルスには、従業員間で温度差もあったが、みんなが興味を持つようになった。「(年長の)自分が感染して良かったかな、とも思う」と振り返る。

 店に復帰してからは、これまで以上に対策に力が入った。ホストは一日一日の売り上げが給料に直結するため、自分からは休みたがらない。しかし感染拡大でクラブが休業することになれば、大打撃になる。

 ホストたちが出勤すると、マネジャーとして一人一人の顔色や体調に気を配る。もし、少しでも変化があれば、こう繰り返す。「感染してしまうのは不可抗力だけど、人にうつしてしまうのだけは避けたい。ちょっとでも体調が悪かったら休もう」

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 出勤前の検温はもちろん、接客時でもマスクの着用を義務付けた。開店前だけでなく、客の入れ替えごとに消毒し、マドラーは使い捨てのものに替えた。店舗の壁には抗菌コーティングも施した。

 こうした努力もあり、愛本店ではこれまでクラスター(感染者集団)は発生していない。都内には年明けから緊急事態宣言が発令されていたが、最近は店の関係者で感染した人はいないという。

 新型ウイルスとの闘いは1年以上に及ぶ。「長くなればなるほど、どうしても対策がうやむやになってしまうことはある」との悩みもある。そんなとき、このウイルスの怖さを思い出す。それを身をもって知る自分が果たす役割は大きいと感じている。