映画に登場した天文台野辺山の巨大な電波望遠鏡。途切れることなくファンが訪れていた=8月、長野県南牧村

 高原の開かれた場所に直径45メートルの巨大パラボラアンテナを備えた電波望遠鏡が鎮座する。今年8月、その周りに親子連れや若い女性グループなどが集まり、ポーズを取るなどして次々に記念撮影していた。ここは長野県南牧(みなみまき)村の国立天文台野辺山宇宙電波観測所。世界の宇宙観測をリードする電波天文学の拠点施設だ。さまざまな観測装置が並ぶ天文愛好家垂涎(すいぜん)の地だが、観光客が集まったわけはそれだけではない。

 大挙した理由は、国民的、世界的人気を誇るアニメーション「名探偵コナン」の今春公開された映画「名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)」の鍵を握る場面に、この天文台が登場していたからだ。映画は観客動員数1千万人、興行収入146億円を突破し、大ヒットした。8月は夏休みと上映期間が重なったこともあり、多くの人が訪れていた。

 南牧村の人口は約3400人。長野県の東端で山梨県と接し、日本一の大河・信濃川の源流にも近い。標高1000〜1500メートルに位置し、JR線で最も標高の高い野辺山駅もある。高原野菜栽培が主産業の静かな山里だ。

 「誰もいないような閑散期に若い女性が道路を歩いてて、村中が騒然となった」。映画の情報が解禁された昨冬を、天文台野辺山所長・准教授の西村淳(39)は振り返る。

 公開されたビジュアルや交流サイト(SNS)でロケ地と広まるにつれ、「聖地」である天文台を訪ねる人は増加。映画が上映された4月18日〜9月末の来場者数は、前年比4・2倍の12万9233人を記録した。新潟県からも、前年比8倍の1842人が訪れた。

 西村は「普段の広報活動が一気に吹き飛ぶぐらいの百年分、千年分の勢いで多くの人に伝わった」とコナンの訴求力に目を見張る。天文台も村も突然のにぎわいを好機と捉えた。

「名探偵コナン 隻眼の残像(フラッシュバック)」のポスタービジュアル(C)2025 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会

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 「これは世界最大級の望遠鏡です。600枚のパネルが0・1ミリ以下のずれでアンテナに敷かれていて、できた43年前には『奇跡の望遠鏡』と言われました」

 紺色のブレザーに赤いちょうネクタイ。「名探偵コナン」の主人公の格好で長野県南牧(みなみまき)村にある国立天文台野辺山宇宙電波観測所のガイドツアーの案内をするのは、...

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