動物をイメージしたキャラクターを通じて人々の孤独を表現し、社会に問い続ける韓国のイ・サシャ監督(29)が、現実と妄想の世界を行き来するプログラマーを主人公にした「ザ・ポップスター・ウォーター・ディアー・アンド・アイ」を作り上げた。これまで短編に取り組んできた中での、初の中編制作への挑戦だ。第4回新潟国際アニメーション映画祭の「Indie Box(インディー・ボックス)」コンペティション部門に選出され来場したイ監督に、制作過程や思いなどを聞いた。
──作品制作のきっかけを教えてください。
私の中にある、世の中に対する不安や孤独がアイデアの源となりました。例えば、一生そばにいてくれると思った友人が、就職や結婚などで離れていったり、LGBTQ(性的少数者)が社会に受け入れられない恐れがあったりと、世の中で不安や孤独に思うことはたくさんあります。多くの人が抱える思いを、作品を通じて共有しようと考えました。
──今回の作品には、朝鮮半島に生息する「キバノロ(Water Deer)」が主人公のアイドルとして登場します。
趣味の自転車で散歩している際によく出合う動物です。シカの仲間で、世界的にみると絶滅危惧種です。あまり毛並みがよくなく、ドラキュラみたいな長い牙を持っているところが、神秘的でかっこいいシカのイメージとは遠く及びません。そこがとても面白いので、いつか登場人物にしたいと思っていました。
──アイドルの対極にいる動物のように感じますが?
野生動物がほとんどいない韓国で、動物界の頂点に立つのがキバノロです。今回の作品では、アイドルのトップ「聖なるアイドル」として位置づけています。
「ザ・ポップスター・ウォーター・ディアー・アンド・アイ」のイ・サシャ監督
──非常に詩的な世界観が伝わります。どこからインスピレーションを得たのですか。
インスピレーションをもらったものは多いですね。アメリカのデビッド・リンチ監督の現実と非現実の混ざった雰囲気の映画がその一つ。好きなアニメ作品からも影響を受けました。今回の作品では、「エヴァンゲリオン」が一瞬で画面を通り過ぎるなど隠れた楽しみも入れ込んでいます。観客の方々に発見してもらえれば面白いかなと考えました。
──色彩的に楽しめる作品ですね。
色鮮やかな、彩度の高い色を多く使うことで、楽しく面白く見えるように工夫しました。主人公とアイドルのキバノロが一緒にいる妄想の世界では夏をイメージするカラフルな色を使い、現実世界は冬をイメージする白や青を使いました。メッセージがよく分からない人にも、まず目で楽しんでほしいですね。他にも工夫をして、意図的にテンポを早くした作品に仕上げたのですが、アニメーター作業を一人でやったので、約17分間を描くことがとても大変でした。
──今後挑戦したいテーマはありますか。
ハッピーになる作品をつくりたいですね。ブラックコメディーなどコメディーをやりたいな。私の母が見ても、面白いと思ってもらえる作品をつくりたいです。今回コンペティションに選ばれたことに感謝しています。私がいろいろと工夫を凝らし、気持ちを込めた作品です。じっくり見てほしいです。
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◆「ザ・ポップスター・ウォーター・ディアー・アンド・アイ」
韓国/2024年/17分/監督:イ・サシャ
「ザ・ポップスター・ウォーター・ディアー・アンド・アイ」©LEE Sasha, KIAFA AniSEED
孤独なプログラマーのベガは、美しいアイドル”キバノロ”に恋に落ちる。妄想の世界で”キバノロ”と仲むつまじく過ごすベガ。しかしいつも仕事がベガを現実に引き戻し、ぬくもりを渇望するベガの心は満たされない。













