新潟に暮らす大学生の「さっちゃん」は、進学のため故郷・鹿児島を離れて雪国へ。薩摩おごじょ(=女性)が日々の暮らしや街を歩いてみつけた「新潟あるある」や驚き、魅力とはー?グラフィックによるちょっとした解説も!

 
 

倹約の精神を伝える酒器

 進学と雪国への憧れで新潟県に来たが、4月から新潟県で社会人になるとは自分のことながら驚いている。卒業制作と就職活動に追われた期間は長かったが、なんとか無事に新たな一歩を踏み出した!

 社会人としてやっていけるのか不安もあるけれど、新しい刺激にわくわくもしている。清酒消費量が日本一、酒蔵も多く、種類も多い新潟県。社会人の宴席では、学生時代には味わえなかったお酒も楽しめるかも! とはいえ、おいしくて飲み過ぎてしまうのでは…と不安がよぎる。

 新潟県出身の友人に宴席を上手く楽しむにはどうしたら良いか相談したところ、ほどほどにお酒を飲むことができる、からくり酒器が新潟県長岡市にあると聞いた。

 このからくりは、「ほどほどに飲むぞ~!」という念や強い意志が反映されたものでなく、サイホンの原理を利用したものだ。サイホンの原理は身近なものだと、給油ポンプや水洗トイレにも利用されている。

十分杯の特徴

 私たちの生活にも身近な原理を利用した器なため、作られた時代はそこまで昔ではないと思っていた。新潟日報の過去記事を調べると、「十分杯」の誕生は5代将軍・徳川綱吉の時代までさかのぼることが分かった!

 当時の江戸では華美な生活が流行していた。それ以前に財政悪化をした経験のある長岡藩にも、そんな空気が流れつつあった。長岡藩3代藩主・牧野忠辰(ただとき)は家臣たちに倹約の精神を伝えるために「十分杯」を作らせ、漢詩で『満つれば欠く』としたためて引き締めを図ったとされている。

 欲張らず、ほどほどに…と伝えるために酒器を作らせたのは、伝えたいことをデザインに落とし込むデザイナーのような視点で、少し親近感を覚えている。

温かなおもてなし…?

 故郷である九州にも、おもしろい酒器はないものか探してみたところ、からくりのある酒器ではないが、なんとも豪快な酒器があった。

 底が円錐形に尖ったコマのような形をしていて、テーブルに置こうとしても転がってしまう…。「そらっ」と注がれたら「きゅう」っと飲み干すことから「そらきゅう」と名づけられたといわれている。底に穴が空いたものもあるらしく、指でふさぎながら飲むそうだ。

 主に南九州地方の宴席遊びなどに用いられたとされていて、鹿児島県の伝統の遊び「なんこ遊び」では、負けたらキュっと飲み干す、といったルールもあるらしい。現代ではなかなか聞かないが、南国ならではの温かなおもてなしなのだろうか…。

そらきゅうの特徴

 焼酎と関わりのありそうな「そらきゅう」を調べていくうちに、焼酎文化と共に栄えた薩摩焼の存在を思い出す。桜島を連想させる、急須を平たくしたような形の「黒千代香(くろぢょか)」と呼ばれる酒器でぬる燗を用意し、「そらきゅう」できゅうっと…。
 今度、帰省した際はお酒そのものだけでなく、酒器や空間から楽しめるような素敵な「だれやめどき(鹿児島弁で晩酌の時間)」を過ごしてみたいものだ。

 酒器について調べる中で、それぞれと似たような酒器があった。沖縄県の「教訓茶碗」や山形県の「八分杯」は「十分杯」に、高知県の「可杯(べくはい)」は「そらきゅう」と似ている。もっと探してみれば、似たものや他のからくりを利用した酒器があるかもしれない。

 会社の人との飲み会では「十分杯」の精神で、気心の知れた友人との飲み会では「そらきゅう」の精神で。時と場によって楽しみ方を変えるのが、社会人として宴席を楽しむコツなのかもしれない。今後はその精神を胸に新潟を歩いていきたい。

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