新潟に暮らす大学生の「さっちゃん」は、進学のため故郷・鹿児島を離れて雪国へ。薩摩おごじょ(=女性)が日々の暮らしや街を歩いてみつけた「新潟あるある」や驚き、魅力とはー?グラフィックによるちょっとした解説も!

 
 

◆焼きそば+ミートソース=イタリア!?

 進学に伴い、新潟県の長岡市に住むことになり、不動産屋を訪れた時のこと。南国・鹿児島県から、1人で雪国へ来たこともあり、不動産屋の方が親切にもランチへ連れて行ってくれた。

 来たばかりの街の、名前も知らないショッピングモール。フードコートの「フレンド」と言う店で「フレンドには、イタリアンもギョーザもあるの!」と言われ、驚いた。イタリア料理から中華料理まで! なんと幅の広いことか。

 しかし、注文した料理が出てきて、また驚いた。

 焼きそばのような麺に、ミートソースがかかった食べ物だった。パスタやピザのような料理を想像していたが、どうやらこれが「イタリアン」らしい。なぜ「イタリアン」なのか、さっぱり分からず面食らった。

 「イタリアン」は新潟県内で有名なファストフードで、いわゆる「B級グルメ」として親しまれている。県民の「ソウルフード」と紹介されることもある。県内では長岡市を中心に展開する「フレンド」と、新潟市などで店を出す「みかづき」で提供されている。

 「イタリアン」は、トマトソースがかかった「スパゲティ風の焼きそば」といったところ。提供を始めたのは「みかづき」が少し早く、喫茶店で流行していた「ナポリタン」の向こうを張って「イタリアン」と名付けたのが由来だそうだ。

 名前は同じ「イタリアン」だが、職場の先輩は「似ているが別モノ」と力説する。「みかづき」は、ソースにトマトペーストを使用し、トマト本来の酸っぱさが残る。オレンジ色に似た明るめの色合い。麺はソースが絡みやすい四角い太麺で、横には白生姜が添えてあり、フォークで食べる。

 「フレンド」は、ひき肉入りの甘いソースで、色は暗めの茶色。丸い細麺で、やや長め。元々はギョーザが店の主力商品だったことから、はしで食べる。

 とまぁ、細かな違いはまだまだあるようだ。

 私も実際に食べ比べてみたけれど、「スパゲティ風の焼きそば」という見た目の衝撃に、最初から最後まで気をとられていたという点はどちらも共通していた。

九州の「がね」ってなんだ!?

 「イタリアン」のように名前と見た目が一致しない食べ物は九州にもある。

 「がね」と呼ばれる家庭料理だ。農林水産省のウェブサイト「うちの郷土料理」によると、鹿児島県、宮崎県、熊本県の郷土料理として紹介されている。

 名前からはどんな料理なのか、想像がつかない。九州の方言で「がね」は、カニという意味だ。しかし、「がね」にはまったくカニは使われていない。

 「がね」はサツマイモを主な材料として揚げた料理で、甘いことが特徴だ。サツマイモなどを太めの千切りにして、衣をつけて揚げる。作り方や味は地域や各家庭によって異なる。「がね揚げ」と言う地域もあり、呼び方も違っているらしい。

 料理の見た目が「カニ」に似ているため、「がね」と呼ばれるようになったそうだが、がね(カニ)に見えたことはない…。

 私の実家では、サツマイモ本来の甘みに、調味料の甘さを足していた。それはそれはもう、甘々の「がね」で最高だった。

 見た目は、野菜のかき揚げによく似ている。でも、かき揚げとは違う。かき揚げは、材料をさっくりと混ぜ、軽さを出すが、「がね」は材料と衣をしっかりと混ぜる。衣には、砂糖やしょうゆを入れる。しょうゆはもちろん、甘い九州しょうゆ。家庭によっては、砂糖の代わりに黒砂糖を入れるところもあるらしい…。

 外はカリッとして、中はふわっ。甘い「がね」はご飯のおかずでもあるし、子どものおやつでもある。もちろん、酒のアテにもなる。九州の老若男女が愛する郷土料理と言える。

 名前と見た目が一致しない、得体の知れない食べ物。だけれど、そこに住む人にとっては、愛すべきソウルフードであって、細かなこだわりもある。それらは新潟県や九州に限らず、どの地域にもあるのだろう。もしかしたら、自分の近くにも未来のソウルフードとなるものがあって、名前を付ける機会があるかもしれない。その時のために、今のうちからネーミングセンスを磨いておこうかな。

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