巡回診療で患者を診察する石塚修院長(中)。地域医療の縮小を心配する市民の声に、政治はどう応えるのか=佐渡市鷲崎
巡回診療で患者を診察する石塚修院長(中)。地域医療の縮小を心配する市民の声に、政治はどう応えるのか=佐渡市鷲崎

 医師の不足や地域偏在などが課題とされる新潟県の医療提供体制。人口減や高齢化で医療需要が変化する中、国は2019年から「地域医療構想」の実現に向け、病院の再編・統合を進めている。だが、過疎地域からは既に進む地域医療の縮小を心配する声が上がる。病院や診療科の閉鎖が相次ぐ佐渡市はその一つ。総選挙を前に、市民は「へき地でも医療を受けられる体制を守ってほしい」と訴えている。

 佐渡市の両津港から海岸線を北へ約30キロ。島の北端にある鷲崎では月に2回、市立両津病院の医師による巡回診療が行われている。病院から車で約1時間かけて集落の集会所に着くと、看護師らがカルテや薬などを運び込み、診察が始まった。

 「前回よりも良くなっていますよ」。患者に優しく語りかけるのは同病院の石塚修院長(59)だ。この日は高齢者9人を診察し、健康状態を確認した。鷲崎から両津病院までは路線バスがあるが、1日にわずか2往復。運転免許を持たない高齢者もおり、巡回診療は住民に欠かせないという。

 両津病院は県からへき地医療拠点病院の指定を受け、3週間ごとに医師3人が巡回診療する。周辺に医療機関がない「無医地区」など9カ所を巡り、市街地へのアクセスが難しい市民の健康を支えている。

 病棟の老朽化や津波被害のリスクが指摘されており、24年に移転新設を目指している。病床は現行の60床を維持するが、在宅復帰に向けたリハビリを実施する「地域包括ケア病床」を新たに設け、福祉との橋渡しの役割も担う方針だ。

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 厚労省は19年、1947年~49年に生まれた「団塊の世代」が全て75歳以上になり、医療需要の変化が予測される2025年に向けて病院の再編・統合を進める方針を打ち出した。救急患者の受け入れが伴わない急性期病院や、過剰な高齢者向け病床の整備など、病院ごとの役割を明確にすることで医療提供体制を確保する狙いがある。

 本県では県やJA県厚生連などが運営する41の公立・公的病院のうち、「再編・統合の議論が必要」として半数以上の22病院の名前が公表された。両津病院も同じ佐渡市の中核病院の県厚生連佐渡総合病院と機能や役割が「類似・近接している」と判断されている。

 これに対し、石塚院長は高度医療や新型コロナウイルス対応を担う佐渡総合病院とは既に役割分担ができていることを強調。「都市部と違い、効率や収益性を求めるだけでは医療が行き渡らない人が出てくる」と指摘する。

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 今月3日には同市の「医療法人おけさ会」が経営する佐和田病院が、五つの診療科を来年3月末に閉鎖することを決めた。法人は医師不足を理由に挙げる。昨年は県厚生連の旧羽茂病院が有床診療所に再編され、来年12月には島内唯一の精神科病院・真野みずほ病院の閉鎖も決まっている。

 岸田文雄首相は新型ウイルス感染拡大を受け、医療従事者確保のために収入増を掲げている。島内の若手医師は「離島に医師や看護師を呼び込むためにも有効な人材確保の施策を実行してほしい」と述べた。

 同市鷲崎の無職、静間夏子さん(82)は「病院や医師が減ると巡回診療も今のように受けられなくなるのではないかと心配。政治家はへき地に住む人の生活も考えてほしい」と選挙での活発な議論を求めた。

◆「無医地区」全国10番目に多い新潟県

 国が地域医療構想を打ち出した背景には、将来的な医療費増大に対する危機感がある。団塊の世代が全て75歳以上になる2025年以降は、医療・介護需要が急増する可能性が指摘されている。病床の数や機能を見直すことによって医療費を抑え、持続可能な社会保障を目指す。

 こうした国の方針に加え、離島や中山間地域などのへき地を抱える新潟県では、医療資源の効率的な活用も課題となっている。厚労省が19年に実施した調査によると、本県には周辺に医療機関のない「無医地区」が17地区あった。14年の前回調査より3地区減っているが、全国で10番目に多かった。市町村別では6市町にあり、佐渡市と阿賀町がそれぞれ5地区で最多だった。

 県は4月、医療体制の在り方を大枠で示すグランドデザイン(全体構想)をまとめた。県内の7医療圏(下越、新潟、県央、中越、魚沼、上越、佐渡)で行っている病院間の役割分担や、再編に関する議論を後押しする狙いがある。

 県福祉保健部の担当者は病院再編も医師不足対策につながると説明する。「地域の中核病院に医療資源を集め、症例数を確保しながら若手医師の誘致につなげたい」と話した。