政治の力への期待を込めて、新潟県内各地域の実情や住民の思いを伝える衆院選連載「知ってほしい」。今回のテーマは「繊維産地」です。
「繊維のまち」として知られる新潟県長岡市栃尾地域。衆院選が公示されたばかりの10月20日、山信(やまのぶ)織物の工場には、生地を織る機械の音が大きく響いていた。しかし稼働しているのは半分ほどだった。
ファッション衣料の生地を主力とする山信織物の西片剛士専務(48)は「春夏物の生産がピークの今はフル稼働しているはずなのに」と顔を曇らせる。
ここ10年、暖冬に消費税増税、新型コロナウイルス禍と地域の繊維産業は大打撃を受けた。メーカーの発注は減少、注文も小口になり、山信織物の年間生産量は4割減った。
バブル期の1991年には15兆円だった全国の衣料品の市場規模は、2017年には約10兆円に減少した。一方、輸入は増加し、全体の供給量は20億点から40億点に倍増。18年時点の国産のシェアは、わずか2・3%にまで落ち込んだ。
西片専務は「日本のメーカーも品質よりも値段ばかりを優先し、国産ならではの気遣いがある製品が失われてきた」と嘆く。さらに糸などの資材の値上げが苦境に追い打ちを掛けており、「最大10%増加した素材もあるが、製品には転嫁できない。どうしたらよいのか」と頭を悩ませる。
栃尾の織物業界ではカーテン生地の生産なども手掛けるが、あくまでも基本はファッション衣料。研究・開発部門を併せ持つ強みを生かし、顧客の要望に合わせた生地を提供する。
日本のファッション文化について山信織物の西片吉邦営業部長(45)は世界トップレベルだと説明。それを支えるのが「国内の中小企業のものづくり」だといい、「高い技術に裏打ちされた良質な製品を作ることができる」と自負する。
栃尾地域についても「若手を中心にベテラン職人と一緒に好奇心を持ちながら、常にチャレンジを続けている。まだまだ世界と戦えることを知ってもらいたい」と力を込める。
業界は苦しい状況だが、単なる保護は求めない。「保護を受けて工芸品になるつもりはない。社員と製品を作り続けていくためには、小売りを含めた全体の支援が必要だ」と訴える。産業の足元から見直すことができる行動力を政治に期待している。
人口減少が続く地方にとって、産業振興は喫緊の課題だ。
見附市内のニット大手、第一ニットマーケティングの近藤英雅社長(73)は「関税の段階的な撤廃や安価な輸入品に押され続けてきた」と話し、繊維産業の不振を構造的問題と指摘。その上で「繊維業界に対する国のスタンスはずっと放任だった。家電メーカーも同じ道をたどり、国内産業全体が衰退を続けている」と政府のこれまでの政策に疑問を呈する。
衆院選では産業振興策を巡り、論戦が交わされている。近藤社長は働く場が失われれば、地方創生は実現しないと訴える。「生き残りには業界の自助と国の施策の両輪が必要だ」
(長岡支社・佐藤貴之)
◎業界全体の支援必要
西片吉邦さんの話 国連の持続可能な開発目標(SDGs)の観点からも供給過多と多量廃棄が続く海外衣料品の輸入を見直し、国内の生産や新製品開発などのチャレンジができる環境を整えてほしい。ウイルス禍で業界全体が窮地にある。産地だけではなく、小売りを含めた幅広い支援など業界全体を考えてほしい。