政治の力への期待を込めて、新潟県内各地域の実情や住民の思いを伝える衆院選連載「知ってほしい」。最終回のテーマは「試練のスキー場」です。

 魚沼平野の向こうに見える巻機山の山頂は、例年より2週間ほど早く雪化粧した。今冬の降雪量は平年並みという予報だ。標高300メートルのシャトー塩沢スキー場(南魚沼市塩沢)では冷たい風が吹き付ける中、「搬器」と呼ばれるリフトのいすをワイヤに取り付ける作業が行われていた。

 12月下旬のオープンに向け、今後もゲレンデの草刈りや隣接するホテルの暖房施設の点検など、急ピッチで準備を進める。約500人を収容できるホテルには来年1~3月、首都圏の中学校や高校から順調に予約が入っている。

 ただ稼ぎ時を目前に控えながら、スキー場とホテルを運営するシャトーテル塩沢の代表取締役総支配人、宮本直文さん(71)の表情は、いまひとつさえない。

 「新型コロナウイルスは下火になってきてはいる。だが、第6波が来れば、予約のキャンセルが相次ぐのではないか」。スキー場の利用客の8、9割は首都圏の人たちが占めている。政府が停止している観光支援事業「Go To トラベル」も、「いつ再開となるのか」と気をもむ。

 悩みのたねはそれだけにとどまらない。原油高でホテルの暖房用の重油が高騰、原材料費高で食材も値上がり、経営を圧迫する懸念がある。地元では高齢化、過疎化が進み、冬場の50人のパート確保も気掛かりだ。人手不足になれば、人件費が上がるのは避けられない。

 塩沢スキー場は開業から半世紀となる老舗だ。関越自動車道の塩沢石打インターチェンジに近く、1990年代の初めには約15万人が訪れた。

 その後、バブル経済の崩壊やスキー人口の減少などによって、2018年度は5万人台にまで落ち込んだ。さらに19年度は「災害級」と称された暖冬少雪、20年度は新型ウイルスの感染拡大に見舞われた。利用客数は2シーズン連続で前年度に比べて半減した。

 「国の持続化給付金や雇用調整助成金、無利子・無担保の融資を利用するだけではとても足りない」。従業員の給与カットに踏み切らざるを得なかった。

 今回の衆院選では、ウイルス禍で打撃を受けた経済をどう回復させるかが主要な争点の一つとなっている。大規模な経済対策を行うとの公約も目を引く。

 宮本さんは「補正予算には期待するが、中身が重要。政治家がスキー場や宿泊施設に足を運び、現場の声をよく聞いた上で政策を決め、予算を組んでほしい」と注文をつけた。

(魚沼総局長・中川一好)

◎GoTo早期再開を

宮本直文さんの話 政府は停止中の観光支援事業「Go To トラベル」を早期に再開してほしい。経済対策とともに雇用の安定が必要。雇用を守る政策を充実させてもらいたい。

=おわり=