世界文化遺産登録の前提となる国内推薦候補に「佐渡島の金山」を選定することを文化審議会が答申した28日、地元の新潟県佐渡市では喜びと懸念が相半ばした。長年の悲願へ一歩前進した一方、国連教育科学文化機関(ユネスコ)への推薦を政府が決定する見通しが示されなかったからだ。「手放しでは喜べない」。困惑が広がっている。
同日午後2時ごろ、県から渡辺竜五市長へ電話で一報が伝えられた。渡辺市長は「まず一歩進めたことに感謝申し上げます」と笑顔で応じた。だが発表された資料にはユネスコへの推薦について、「政府内で総合的な検討を行っていく」と説明があり、明言されていなかった。
渡辺市長は取材に対し「異例なことで、どんな検討をしていくのか把握していない。推薦してほしいということを県民と共にしっかりと訴えていくことが大事だ」と話した。
戦時中、朝鮮人労働者が坑内作業に従事していたことが懸念材料として挙がっている。渡辺市長は「情報が把握できていないが、われわれとしては大規模な金山を手工業で開発した江戸幕府の仕組みという価値をしっかり世界に届けたい」と述べた。
また、突然の発表も異例で、お祝いムードは盛り上がらないまま。文化審議会は通常、数日前に開催予定が発表されるが、今回は関係者への事前の周知もなかった。会見などを予定していた市は対応に追われ、渡辺市長は「もう少し(連絡を)早くいただきたいと思っていた」とこぼした。
世界遺産登録に向けた機運醸成に、2007年から取り組む市民団体「佐渡を世界遺産にする会」。前身の団体から数えれば20年以上、登録を目指して活動してきた。5度目の挑戦が実り、中野洸会長(80)は「やっとここまできた」と喜んだ。
同会では、候補選定を祝い、伝統芸能などを披露するイベントを開く予定だったが、突然の発表で準備が間に合わなかった上、ユネスコへの推薦が決まらなかったため実施しなかった。中野会長は「どうしてそのまま推薦決定としないのか、納得のいく説明をしてほしい」と求めた。
「今年は異例ずくめだったので、取りあえずほっとしている」。史跡佐渡金山を運営するゴールデン佐渡の河野雅利社長(57)は安堵したが、用意していた横断幕の掲示は見送った。ユネスコへの推薦書の提出期限は来年2月1日。河野社長は「年明けにはいい話を聞きたい」と話した。
市内のスーパーマーケットなどには、答申を伝える本紙の号外が掲示された。島内に帰省していた新潟市市西区の女性(36)は「一歩近づいたようなのでうれしい。このまま登録までいってほしい」と期待していた。