国の文化審議会が国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界文化遺産に推薦する候補に「佐渡島の金山」を選んだことを巡り、韓国が反発している。背景には、佐渡金山で戦時中、朝鮮半島出身者が働いていたことがある。日韓関係に詳しい神戸大大学院の木村幹教授(55)は18日までに新潟日報社のインタビューに応じ「佐渡金山の推薦と日韓の歴史認識は、切り離して考えるべき問題」と述べ、あくまでも佐渡金山の価値を発信し理解してもらうことが大切と指摘した。
佐渡市の「佐渡相川の鉱山都市景観 保存調査報告書」によると、戦時中の佐渡金山の朝鮮人労働者は、約千人に上るという。木村教授は「日韓は慰安婦などの問題で対立してきた。佐渡金山の推薦も、そうした“歴史戦”の一環として韓国内で受け止められている」と分析する。
韓国外務省は昨年末、佐渡金山の推薦を撤回するよう求める論評を出した。「韓国政府としては、国内世論もあるので取りあえず反対しておこうという感じだ」と木村教授。日本政府が韓国に配慮し、推薦決定に慎重になっているとされる点について「過剰反応と言えば過剰反応」とみる。一方で、「今回の政府の対応は『調整型』の岸田政権らしく、いろんな人の顔色を見ていることの典型例だ。2月1日の期限は岸田政権の歴史認識を問う試金石になる」との考えを示した。
戦時徴用を巡り、2015年に世界遺産に登録された端島(通称・軍艦島)を含む「明治日本の産業革命遺産」で韓国が反発した。日本政府は登録時、朝鮮半島出身者の状況を理解できるような説明を講じると約束。しかし、昨年夏のユネスコ世界遺産委員会で「説明が不十分」と決議された。昨年末、韓国の公共放送KBSテレビはニュース番組で佐渡金山を「第二の軍艦島」と紹介した。木村教授は「韓国にとって端島の件が不信感の源泉になっている」と解説する。
韓国外務省は論評で「(強制労働に対する)十分な説明なしに世界遺産に登録されないよう強力に対応していく」としている。木村教授は「佐渡金山でも、朝鮮半島から動員されてきた労働者がいたと明示することを日韓両国が“落としどころ”としてみている可能性はある」とみる。
しかし、佐渡金山の推薦内容は江戸時代までに限られており、朝鮮半島出身者が働いていた戦時中は推薦対象になっていない。木村教授は「(歴史問題と)切り離して考えるべきで、本来は外交問題になるべきではない」と強調する。
端島も1910年までを推薦内容としていたが徴用工問題が浮上し、議論がヒートアップしたいきさつがある。「端島の失敗を繰り返してはいけない。歴史認識問題とリンクさせずに佐渡の価値を語り、知ってもらうことが大切だ」と語った。
<きむら・かん> 1966年大阪府生まれ。京都大大学院修了。神戸大大学院助教授などを経て2005年より現職。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。著書に「歴史認識はどう語られてきたか」など。