個展でライブペインティングを行う韮沢靖さん=2010年、東京都内(韮沢靖事務所提供)

 俳優の佐藤健さんが主演した「仮面ライダー電王」で人気を博し、今も愛され続けている「モモタロス」。モモタロスは怪人ながら、ライダーの相棒役というメインキャラです。子ども向けとは思えない恐ろしい顔ですが、「仮面ライダー史上最も愛された怪人」だといいます。モモタロスを生み出したのは、怪人やモンスターを専門にデザインする「クリーチャーデザイナー」の故・韮沢靖さん(新潟県長岡市出身、1963年〜2016年)。ハードロックやパンクに影響を受けた個性あふれる表現は、今も輝きを放ちます。韮沢さんが亡くなって2025年2月2日で9年。創作への思いに迫ろうと、関係者の元を訪ねました。

 にらさわ・やすし 1963年、栃尾市(現長岡市)生まれ。東京デザイナー学院デザイン科卒。イラストレーター小林誠氏のアシスタントなどを経て独立。クリーチャーデザイナー、漫画家、イラストレーター、造形作家として国内外で活躍。2016年、52歳で亡くなった。

◆「恐いヤツだけどいいヤツ」

 韮沢さんがこれまで手がけたものには、仮面ライダーやデビルマン、ゴジラといった誰もが知る作品のキャラクターがたくさんあります。

 仮面ライダーシリーズでは、2000年代の「剣(ブレイド)」「カブト」「電王」「ディケイド」の4作で、それぞれ怪人をデザインしています。50周年記念映画「ゴジラ FINAL WARS」(04年)のガイガンや、「デビルマン」(1998年)のフィギュア製作のためのリデザインのほか、「真・女神転生Ⅳ」(2013年)といったゲームのモンスターデザインなど仕事は多岐に渡ります。

「仮面ライダーカブト」ワームのデザイン画。「BLOOD of NIRA’s CREATURE 韮沢靖追悼画集」(宝島社)より=(C)石森プロ・東映

 仮面ライダーの中でも、特に人気を博したのが「電王」のモモタロスでした。

 モモタロスをはじめ、作品中の怪人の総称「イマジン」のデザインは、おとぎ話のキャラクターがモチーフです。「仮面ライダー電王 韮沢靖 イマジンワークス SAY YOUR WISH… 新装版」(復刊ドットコム)によると、モモタロスのデザインは、「桃太郎」をベースにした赤鬼という依頼だったと明かしています。

「BLOOD of NIRA’s CREATURE 韮沢靖追悼画集」(宝島社)。現在、再販の予定はない

 現代版赤鬼は、ライダーの相棒として戦ういわば“正義の怪人”ですが、かなりのこわもて。韮沢さんはこの本の中で、「石森作品ですから“恐いヤツだけどいいヤツ”を推し進めています。たくさんの人によって最高のキャラクターが出来上がりました」と、原作の石森章太郎さんへのリスペクトや多くの人の協力で作り上げたデザインだったと解説しています。

「仮面ライダー電王」モモタロスなどのデザイン画。「BLOOD of NIRA’s CREATURE 韮沢靖追悼画集」(宝島社)より=(C)石森プロ・東映

 「あえてかわいくならないように気をつけていた」。韮沢さんの創作をそばで見守り、支えてきた妻(58)=東京都=にも話をうかがいました。「怖いものが得意というのもあるけど、子どもがつまらなくないよう、本気で普遍性のあるデザインにしていた」。韮沢さんもモモタロスをとても気に入っていました。

 韮沢さんは当初、放映が始まるまでどんなキャラなのか分からなかったそうです。主人公に憑依(ひょうい)したり、“ライダー”なのに電車に乗ったりと異例の設定。2人で1話目の放送を見て、不安が吹き飛んだといいます。「モモタロスたちが生き生きとして、すごく楽しかった。元はイラストだけど、スーツアクターと声優、プロデューサーらプロの力が結集され、すべてうまくいっていた」と韮沢さんの妻は振り返ります。

◆怪人の悲しみ、マイノリティーへの愛

 韮沢さんは長岡市栃尾地域に生まれ、中越高校を卒業するまで地元で過ごしました。クリーチャーデザイナーへの道を育んだのは、何だったのでしょうか。原点は...

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