ガメラ2のポスターの前でガメラポーズをする伊藤和典さん=新潟市中央区の市民映画館シネ・ウインド

 アニメ「うる星やつら」でデビューし、平成ガメラ3部作などを手がけた脚本家の伊藤和典さん(69)が新潟日報社のインタビューに応じ、新潟市出身の漫画家高橋留美子さんとの思い出や、ガメラの制作秘話などを振り返りました。11月27日はシリーズ第1作が公開された「ガメラの日」。2025年に60年の節目の年を迎えるガメラの裏側に迫ります。

漫画をどうアニメに落とし込むか…試行錯誤のデビュー作

「うる星やつら」で初の脚本、高橋留美子さんとの“ほろ苦話”も

 伊藤さんはテレビやアニメなどの制作現場で働きながら脚本家を目指していました。初めて声がかかったのが「うる星やつら」(1981年)の脚本でした。

 「アニメに勢いがあった時代だったからか、今より自由で大ざっぱだった」と振り返ります。連載中の「うる星やつら」は1回16ページ。30分のアニメにするには短かったそうです。「足りない分をどう補うかというのを考えていた。うまくいった場合には高橋先生に喜んでもらえたが、そうでないときもあった」といいます。

デビュー作「うる星やつら」を振り返る伊藤和典さん=新潟市中央区の新潟日報メディアシップ

 それとは逆に、連載4回で一つのエピソードを描いている場合には、30分にするために中身を短縮する必要がありました。「削ってしまったところが、意に沿わなかったのか、『あの回には怒りさえ覚えた』と言われてしまった」と苦笑します。

 漫画としてのうる星やつらは少年誌では「異質」な印象があったと話します。「恋愛ものといえば『愛と誠』のような純情ものがあったくらいで、あんなにポップでライトなラブコメディーはない。とにかく新しかった」と驚きを語ります。

 その後、「めぞん一刻」や「機動警察パトレイバー」「魔法の天使クリィミーマミ」などのアニメ脚本を手がけました。

全力注いだ第1作、難航した第2作…第3作での“意外な即決”

平成ガメラ3部作の歩み、そして特撮史に残る名シーンの誕生

 伊藤さんの実家は山形県上山市で映画館を営んでいました。小学生のときに見た「キングコング対ゴジラ」(1962年公開)で怪獣映画に夢中になり、中学生のときには「特撮監督」が将来の夢でした。

 脚本家となり、「いつか特撮を書きたい」と思っていた伊藤さんに、映画監督の金子修介さんが「ガメラをやらないか」と声をかけてきます。

 「ガメラか…という感じではあった。ゴジラをやりたかったところはある」。ただ、むしろゴジラでできないことをやろうと、金子さんや特撮監督の樋口真嗣さんと話したそうです。

新潟市で開かれた「ガメラ2」の上映会場に展示されたポスター

 1995年の「ガメラ」では、怪獣映画で表現したいこと全てを注ぎ込み、「生態系の守護者であるガメラと、ギャオスの闘い」を描きました。制作途中で、当初5体登場する予定だったギャオスを、樋口さんが「5体も出すのは難しい」と3体にするなど、「できてみるまでは不安があったが、できたらいけるんじゃないか、という気になった」。

 1996年の「ガメラ2」では脚本に難航。アリやハチをイメージした社会性のある宇宙生物を出すことは決まっていたものの、前作に全力を注ぎすぎ、「すっからかん」だったため、思うように書けませんでした。「本気で夜逃げも考えた」といいます。

 なんとか書き上げた初稿も「いけてなかった」。金子さん、樋口さんと打ち合わせを重ねて何とか作り上げた。そんな労作が「最もつらかったが、代表作といえるものになった」と振り返ります。

「ガメラ2はあの時点での120%の力で書いた脚本。自信作になった」と話す伊藤和典さん=新潟市中央区の新潟日報メディアシップ

 ガメラ2では北海道を舞台の一つにすることは決まっていましたが、もう1カ所について、伊藤さんは「故郷の山形・蔵王にしよう」と主張しました。ところが、「雪山では対比するものが少なく、スケール感が分からない」と却下に。樋口さんは福島県の会津若松市を押したそうです。「樋口さんは、お城を撮りたかっただけの気もした。実際に行ってみると、ちょっと合わなかった」。その結果、仙台市が舞台に決まりました。

 「ガメラ3」(1999年)のラストシーンのロケ地も、現場のロケハンで結論を出しました。当初は京都市の清水寺を予定していたのですが、現地をみると想定にあまり合いませんでした。

 遅れて夜行列車で京都入りした樋口さんが、たまたま完成直後のJR京都駅を見て「ここがいい」と即決。ガラス張りの駅舎の中でガメラが敵と戦う、特撮史に残る名シーンの撮影場所はこうして決まったそうです。

「ゴジラ-1・0」のCG技術に驚嘆、ただ…

特撮の在り方とは?伊藤さんが考える未来像

 2023年、「ゴジラ-1・0(マイナスワン)」が大ヒットしました。伊藤さんも...

残り787文字(全文:2490文字)