
「北越雪譜」刊行までの数奇な道のりを描いた「雪夢往来」
雪国の自然風土や風俗、言い伝えなどを越後から江戸に伝え、ベストセラーになった鈴木牧之の「北越雪譜」は、初稿から刊行まで40年も要した。直木賞作家木内昇さんの新刊「雪夢往来(せつむおうらい)」は、その波乱の年月を江戸の人気戯作(げさく)者たちの視点も交えながら描いた長編時代小説だ。木内さんは鈴木牧之について「最後まで諦めなかった、しぶとい人」と語った。
塩沢(現新潟県南魚沼市)の縮商人鈴木牧之は19歳の時、初めて江戸に行商に出た。越後はどのくらい雪が積もるのかと聞かれ、「高さが一丈(約3メートル)ほどになりましょうか」と答える場面が出てくる。江戸の人たちは大法螺(おおぼら)だと笑い飛ばした。越後に戻って商いを営む日々の中で、牧之の心には「いつの日か江戸者に故郷を認めさせたいという妙な執念」が油の染みのようにこびりついていく。
牧之の書いた原稿は江戸の人気戯作者山東京伝の目に留まり、刊行へと動き始める。しかし版元からの金銭要求や、度重なる仲介者の死などに見舞われ、一向に実現しない。京伝に敵対意識を持つ滝沢馬琴の思惑にも翻弄(ほんろう)される。ようやく京伝の弟、山東京山の援助で刊行にこぎ着けたのは天保8(1837)年、牧之が本にしたいと夢見てから40年もの年月が流れていた。
月刊誌「小説新潮」に2020年10月号から22年1月号にかけて連載したものを書籍化に当たり加筆・修正した。木内さんは北越雪譜について、「かねて内容を面白く読んでおり、いずれ成り立ちや、ベストセラーになった過程などを書いてみたいと思っていた」と説明する。

改めて調べてみて、...
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