議論を始める前から、あらかじめ結論が出なかった場合の措置を決めておく。これでは、最初から熟議を否定しているに等しい。

 拙速で乱暴なやり方によって、民主主義の根幹である選挙制度を変更してはならない。

 自民党と日本維新の会は5日にも、衆院議員定数465の1割を目標に削減するための法案を衆院に提出する。

 法案によると、削減方法は衆院議長の下の与野党協議会で検討し、法施行から1年以内に結論を出す。結論が出ない場合、法案の実効性を担保する措置として小選挙区25、比例代表20の削減を明記し、今国会中の法案成立を期す。

 維新は当初、担保措置として比例代表50削減を主張した。だが、公明党など一部野党が比例代表のみの削減に猛反発した。参院では依然として少数与党で、法案成立には野党の協力が欠かせない。

 維新にとって定数削減は連立政権の絶対条件だ。小選挙区と組み合わせる方針転換は反発を和らげるための窮余の一策と言えよう。

 そもそも、「比例代表50削減」についても説明が尽くされたとは言い難かった。まずは「小選挙区25、比例代表20削減」とした根拠を明らかにするべきだ。

 共同通信社は小選挙区25、比例代表20の削減となった場合の定数配分を試算した。それによると、小選挙区は20都道府県で1~3減少し、比例代表も全国11ブロック全てで1~3減る。

 本県は前回衆院選で小選挙区を6から5に1減しており、削減対象にならなかった。しかし、富山など3県は1減の2となり、鳥取県などと並んで全国最少となる。

 定数削減は、地方の声が国政に届きにくくなるとの懸念がある。議員だけではなく、有権者にとっても大きな問題だ。

 法案に関し、自民の鈴木俊一幹事長は党の政治制度改革本部などの合同会議で「国会でも丁寧な審議をしていく」と述べた。

 だが、今国会の会期末は17日で日程は窮屈だ。また、鈴木氏は会期延長に否定的である。今国会中の法案成立にこだわらず、与野党で時間をかけて協議するべきだ。

 削減方法は法施行から1年以内に結論を出すと期限を設けたことも看過できない。根拠について鈴木氏は記者会見で「世論調査で定数削減への高い支持があり、立憲民主党の野田佳彦代表も削減すると言った経緯がある」と述べた。

 一方、野田氏は「与党だけで1割削減、1年以内に決めるといった枠組みを作ること自体、常識では考えられない」と問題視する。

 期限の設定は、協議の加速化を促すのが狙いだろうが、期限よりも各党の幅広い合意を優先するべきだ。まして、議論がまとまらなかった場合を想定し、法案の実効性を担保する措置を講じるなど論外である。