国民のためではなく、電力会社のための規制緩和ではないか。原発の安全を最優先とする姿勢が見えてこない。

 原子力規制委員会は、原発へのテロ攻撃に備えて設置を義務付けている特定重大事故等対処施設(特重)の設置期限を延長する方針を決めた。

 現行制度は、原発本体の設計・工事計画の認可から5年以内の完成を求めている。施設が未完成のまま期限を過ぎた原発は運転できなくなる。

 規制委が検討する新制度は、5年の起点を、新規制基準の審査合格後初めて営業運転を開始した日へ遅らせる案が軸となる。施設完成までの猶予期間を延ばす形だ。

 1月に再稼働した東京電力柏崎刈羽原発6号機の場合、施設が未完成でも現行では2029年9月まで運転できるが、新制度になれば、さらに1年半ほど長く運転できるようになる。

 テロ対策施設は、遠隔操作で原子炉を冷却できる制御室などを備える。東電福島第1原発事故後に設置が義務付けられた。過酷事故を踏まえ、安全を守るために必要だとされたためだろう。

 その施設が整わないまま原発を動かせる期間を延ばすことは、事故の教訓に学んだと言えるのか。強い違和感を覚える。

 延長方針の背景には、各原発でテロ対策施設の完成が遅れている現状がある。施設が完成している原発12基のうち、期限に間に合ったのは1基のみだった。

 電力各社は建設業界の人手不足を理由に延長を求めている。規制委は労働環境の変化は理由にならないとしつつ、見直しを議論するとし、今回の延長案が浮上した。

 山中伸介委員長は、現行の期限について「結果を積み上げると無理があった」と述べ、規制緩和という見方を否定した。

 だが、立地地域の不安を軽視している印象は拭えない。

 電力会社は過去にも期限延長を求めたが、規制委は19年に認めない判断をした。当時の更田豊志委員長は「設置に手間取っているから、もう少し(延長しよう)と繰り返していると、安全向上は望めない」と語った。

 国民の生命、暮らしに関わる原発の安全を守る規制当局としてあるべき姿だろう。

 再稼働した柏崎刈羽原発6号機では、制御棒関連のトラブルが頻発している。30年超運転に関する審査の申請書類に多数の誤りが見つかり、テロ対策に携わる社員による秘密文書の不適切な扱いも明らかになっている。

 規制を緩めて、原発への信頼を得られる状況ではないはずだ。

 規制委設置法は「事故の発生を常に想定し、その防止に最善かつ最大の努力をしなければならない」と記す。規制委はその理念の下、厳格な審議を貫くべきである。