国際社会が築き上げてきた核軍縮の流れに逆行する判断だ。世界情勢を一層不安定にしかねず、平和への大きな脅威である。
フランスのマクロン大統領は、冷戦後大幅に削減した自国の保有核弾頭の数を増やすと表明した。
歴史的な戦略転換である。「核なき世界」の実現を一段と遠ざけるものだ。
マクロン氏は「核の傘」を欧州に広げる方針を具体化し、核搭載機を他国に一時展開する可能性にも言及した。
米国とロシアは冷戦終結後、核軍縮に進み、フランスも1990年代初頭の約540発から290発まで減らした。だが2022年、ロシアがウクライナに侵攻したことで潮目が変わった。
米ロの対立により、今年2月には両国間の唯一の核軍縮合意「新戦略兵器削減条約(新START)」が失効した。
世界における核弾頭の9割近くを保有する両国の核管理体制が機能不全に陥ったというのが、フランスの認識だ。
トランプ米政権の欧州軽視の姿勢も念頭に、フランスは欧州独自の核抑止力強化へかじを切った。欧州8カ国がこの抑止概念に賛同したとされる。
マクロン氏は核弾頭増強を表明した場で「自由であるためには恐れられなければならない。恐れられるためには強くなければならない」と語った。危うい発想だと指摘せざるを得ない。
米国とイスラエルによるイラン攻撃で中東が混乱する中、こうした核依存の動きが出てくることに危機感を抱く。
懸念するのは、軍拡競争の加速だ。他の国も対抗して核戦力に頼ろうとする「核ドミノ」につながりかねない。
英国は既に21年の時点で、保有する核弾頭の上限を180発から260発に引き上げることを表明していた。
アジアも例外ではない。保有数で世界3位の中国は、核軍縮に後ろ向きだ。現在600発を持つと推計されている。米国防総省によると、30年までに千発超に届くとみられる。
北朝鮮も核保有国としての地位確立を狙っている。金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記は、2月の党大会で核兵器を増産する姿勢を示した。
フランスの方針に対し、日本原水爆被害者団体協議会は「絶対反対」との怒りの声を上げた。被爆地広島のNPO団体も「核戦争への第一歩を踏み出してしまった」と憂える。
日本政府として非難の声を上げていかねばならない。しかし木原稔官房長官は「第三国の政策へのコメントは差し控える」と述べるにとどまる。
唯一の戦争被爆国である日本は、核軍拡への明確な懸念を発信するべきである。

