仲介する米国がロシア側に立っていては、ウクライナの尊厳は守られない。侵攻した側のロシアに利することなく、国際秩序を保つ交渉に徹するべきだ。
ウクライナ侵攻の早期終結を目指したトランプ米政権の和平案を巡る協議が難航している。
2日にはロシアのプーチン大統領と米国の和平交渉担当特使らが協議したが、プーチン氏は和平案の一部は受け入れられないとし、譲歩を拒否した。
トランプ米大統領にとっては、仲介外交が空振りに終わり、8月の米ロ首脳会談に引き続き、突破口を開けなかったことになる。
米側には残念な結果だろう。だが、そもそも示した和平案に無理があることは明らかだ。
米国は11月下旬、ロシアの主張を基にした和平案を作成し、ウクライナに受け入れを迫った。
ウクライナの東部ドンバス地域の領土割譲や、軍の規模半減、主要兵器の放棄などを盛り込んだ。ウクライナには極めて不利な内容で、ほぼ降伏要求と言える。
ウクライナと欧州が共同声明で「国境線は武力によって変更されてはならないという原則は明確だ」と言明し、修正を求めたことはもっともだ。
侵攻された側に、大国が譲歩を強いる事態は断じて許されない。あまりにロシア寄りの和平案には、米国内でも批判が噴出したという。当然の反応だろう。
米国はウクライナと協議し、将来のいかなる合意もウクライナの主権を完全に守ることを再確認したと共同声明に明記した。
しかし、プーチン氏は欧州側による提案修正を「和平の妨害にほかならない」と述べるなど、批判的だ。全ての要求で妥協しない「最大主義」を貫く。
強気でいるのは、巨額汚職事件でウクライナのゼレンスキー政権が打撃を受けている今が、不平等な和平案に応じさせる好機と考えているからに違いない。
見過ごせないのは、米側が和平案を協議する際に、米ロ間の大規模経済協力を推進することについても話し合っていたと報じられていることだ。
米国が終戦後にロシア経済の再建を支援し、巨額の利益を得る狙いがあるとみられる。
トランプ氏は、全ての対立点が解消されなくても、戦闘停止を最優先にして合意を取りまとめたい考えだ。ロシア側との折衝については、外交経験が乏しい不動産業界出身の側近に任せてきた。
しかし、内容より合意ありきの交渉は危うく、将来に禍根を残しかねない。トランプ氏は仕切り直し、ウクライナを最優先する交渉に切り替えてもらいたい。
侵攻開始から3年10カ月が迫り、ウクライナとロシアの死者は計9万人に近い。犠牲をこれ以上、増やしてはならない。
