不測の事態を招きかねない挑発的行為である。中国は、緊張を高める行為を自制するべきだ。対立が激化しないよう、日本政府は冷静に対処しなくてはならない。
防衛省は、沖縄本島南東の公海上空で、中国海軍の空母から発艦した戦闘機が航空自衛隊の戦闘機に対し、2回にわたってレーダー照射したと発表した。
防衛省によると、領空侵犯を警戒するために発進した空自機に、中国の空母「遼寧」の艦載機が断続的に照射した。空自機は距離を取って監視していたという。
高市早苗首相は「極めて残念だ。再発防止を厳重に申し入れた」と記者団に述べた。
一方、中国海軍は「自衛隊機が海軍の訓練海空域に複数回接近して妨害した」と主張する談話を出した。レーダー照射をしたかどうかの事実関係には触れていない。
レーダーはミサイル発射に向けた準備段階となる火器管制や、周囲の捜索の目的で使用する。
専門家は、断続的照射なら捜索でなく、「ミサイルを撃つためのロックオンであることは間違いない」とみる。
極めて危険な行為であり、決して容認できるものではない。
中国は、高市首相が「台湾有事は存立危機事態になり得る」と発言した11月7日以降、反発を強めている。日本への渡航自粛を呼びかけ、日本産水産物の輸入手続きも停止した。日本人歌手らの公演中止も起きている。
外交の舞台でも対日批判を繰り広げるなど、高市政権への対抗措置をエスカレートさせている。
今回の照射は、安全を脅かすものであり、日中の対立が軍事的緊張に発展した事態といえる。
最も懸念するのは、緊張の中での偶発的な衝突である。
中国が東アジア海域に多数の艦船や警備艇を展開しているとの今月4日の報道も気がかりだ。
通常の数を上回る艦船などの派遣を始めたのは高市氏の発言に反発し、撤回を求めるようになった時期と重なる。
中国軍は11月に3隻目となる空母を就役させ、周囲へのけん制を強めている。
威圧や、力を誇示する中国の行動は地域の緊張を高める脅威でしかない。大国として、あってはならない行動である。
日本も慎重さが必要だ。タカ派色の強い首相が、平和国家として守ってきた戦後の安全保障政策を転換しないか、周辺国が注視していることを忘れてはならない。
東アジアの主要国である日中の対立は地域情勢を不安定化させる。10月に高市氏と習近平国家主席で確認した「戦略的互恵関係」の推進へ、緊張緩和を急ぎたい。
目指すべきは意思の疎通である。防衛当局幹部のホットラインも活用し、事態打開への対話を進めてもらいたい。
